言霊が宿る世界で、賢者のオレが頂きに立つ

BK

第1話

言霊、というものをご存知だろうか?

言葉には魂が宿り、それが実際に影響を我々に与えるという考えだそうだ。

もちろん、科学的にはそんなものがあるわけはないのだが、死ねと言われれば死にたくなる人もいるし、大丈夫と心で唱え続ければ大丈夫になる人もいることは事実だ。あながち無価値ともいい切れないかもしれない。

さて、今回はそんな言霊が実際に、確実に存在する世界である青年が辿る道程を我々も追ってみるとしよう。




この世界では、知力を持つものに他人はついていく。何故なら言霊という概念によって、武力と知力がほぼ等式で結ばれる関係性にあるからだ。

そんな世界で、最賢の16歳と称される金髪の彼。

名をラング=ゲン。彼の視点で、世界を観察してみよう。


「んあ、もうこんな時間か」

眠い…けどなぁ…

「待ち合わせに遅れるとアイツ結構怒るからなぁ…面倒くせぇ」

「ラング!もう待ち合わせの時間だろう」

「わかってるつーの。てか息子のスケジュール管理すんなよ」

「管理しなければ1日中寝ているだろう」

「…否定は、できないなぁ」

「だろう。まぁいい、とにかく行って来い」

「うい、行ってきまーす」

な~んで朝から小言を言われにゃならんのかね。

この国の頂点の頭脳を持ち、国で行われる頭脳比べに優勝し最高の名誉である

イル=ミギロア=ジェニオの称号を賜ったラング=ゲン様に何をごちゃごちゃ言う資格があるのか、皆目見当もつかん。

『走』

やっぱ言霊っつーのは便利だ。まぁぶっちゃけオレの運動神経はよくはないんだが、それに影響されずにイメージ通りに体が動く。この分ならギリ待ち合わせにゃ間に合うだろうな。

ゴンッ

「痛ぇなガキ!!」

「…すいません、ちょっと急いでるんで」

「そんな言い訳で解決するわけ、ねぇだろ!!」

胸ぐら…正当防衛だよなぁこれ。

『鋏』

オレは両手でようやく持てるような巨大な鋏を生成し、チンピラに向ける。

「…っ!?」

「はぁ、こっちもムダに争いたくはないんです。

これ以上ケガする前に退散をオススメしますが」

「うる、せぇ!!」『弾』

はぁ!?銃弾じゃねぇか!!無抵抗で受けたらまじで死ぬぞ!?法とか知ってんのかこいつ!?

「チッ…」『壁』

鉄製の壁で銃弾を防ぎ、死角に入るように離脱。

『走』

ああいう面倒な連中は無視してさっさと逃げるに限るな。

「ああ!?あのガキどこ行きやがった!?」


「っと」

「……272秒オーバー、アウト50回目の大台突破だ。嬉しいか、ああ!?」

「まぁまぁまぁ、そんなピリピリしなさんな。

こっちだってチンピラに絡まれてんだ」

「俺の時間を奪っているのだ。ごちゃごちゃ言うのは当然だろう?」

「お前のそういうところは心底嫌いだぜ。

イディオ」

こいつはイディオ=リングァ。去年の優勝らしいが、今年はオレに負けてる。準優勝のこいつがオレにケンカ売ってきて、そのうちに仲良くなった。

「んで、これからどこ行くんだ」

「なに、他愛のない雑務だ」

「そうかい…」



「おい」

「どうした」

「なにが他愛のない雑務、だって…」

目の前には倒れ込み、今にも死んでしまってもおかしくなさそうな少女と、それを一生懸命看病する母親と思われる女性が一人。

「お願いします…娘を、助けてください…」

「はい、必ず助けます。心配しないでください」


「お前の力が必要だが、お前がついてくるか怪しかったから濁させてもらったよ。悪いな」

「濁さなくても命がかかってるなら行くからさ、今度からは言ってくれよ」

「善処する」

こいつの言う通りオレは究極の面倒くさがりだが、助けられる命を見捨てられるほど外道に成り下がったつもりはない。

「で、これ”言魔”だろ。性質は」

「わかってない」

「わかってない上でここまで進行しちまったか…」

”言魔”はこの国の流行り病だ。いろいろな種類があり、それぞれ性質も異なる。しかし共通するのは、突如言霊を使えなくなる。腕から全身を蝕み、最終的に動けなくなる。こんなところか。

今回は性質がわかっていない以上、的確な対応は取れない。どうするべきだ…

「お前なら何か浮かぶだろう」

「オレを万能だと思うな。」

薬の類は性質に合わせて作られるものであって、万能薬なんてファンタジーじゃねーんだからありえない。かといってこの進行度で手術も、効果は薄い。

………!!

「一応、一応だ。やりたくないが、あるよ」

「本当か!?なら一刻も早くやらねば」

「聞け。―――――――――」


「ふむ…言いたいことは分かった。確かに…残酷だが、今はやるのが最善だ」

「まぁ…そうだよな…」

我ながら、本当に酷い作戦だ。だが、全身を覆うものを取り除くにはこれしか考えれなかった。

『麻痺』

『失明』

『切断』

プランはこうだ。まずオレが『麻痺』と『失明』で感覚を奪う。そして一刻も早く感染した表皮の部分を切り落とし、そして一気に…

「切断完了!!」

『再生』

健康な部位を再生させる…!!

「うまくいったか…?」

「あれ、くるしくない…」

俺達は小さくガッツポーズをし、目を見合わせる。

「お二方、本当にありがとうございます…なんとお礼をしたらよいか」

「あの子が元気でいるのが何よりのお礼です」


「意外だなおい、お前ってあんな事言うタイプだったのか」

「俺をなんだと思っている」

「傲慢でムダにプライドの高いオレに負けたやつかな」

「死にたいか」

「ごめんって…オレはさ、言霊はさっきみたいに人を助けるために使うべきだと思うぜ」

「まぁそれはそうだろう」

「哲学っぽくなっちまうが、今じゃ戦に使われまくってるけどほんとはこういう為に使うためにできたんじゃないかって、オレはそう思う。

だがそれはそれとして、オレは自分の目的のため、言霊を使わせてもらう」

「そんな事考えても無駄だろう」

「そう言うだろうと思ったぜ…じゃ」



オレは、言葉が好きなんだ。だからオレは、言霊が、この世界が大好きなんだよ。






あとがき

初投稿です。pixivで二次は書いてましたが、オリジナルは初ですね。

言霊の世界はバトル中心でやるつもりですが、まず医療…みたいなのをもってきたのは戦いのために言葉があるのではないことを示したかっただけです。






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