【転生源平合戦短編小説】数式は運命を変える〜転生姫の源平数学戦記〜(約6,100字)

藍埜佑(あいのたすく)

【転生源平合戦短編小説】数式は運命を変える〜転生姫の源平数学戦記〜

●プロローグ:蝶の羽ばたきは、歴史を変えられるのか?


 八百年前の記憶を持って、私は目覚めた。


「ちょっと待って、これマジで転生!? しかも平家の姫って……」


 私、長崎知花(ながさきちか)は、数学オリンピック金メダリストにして、歴史マニア。目覚めた先は、なんと源平合戦まっただ中の平家の陣営だった。前世の私は、カオス理論を研究する天才数学者。でも、この世界では平維盛の娘として生まれた平知姫(たいらのちひめ)。


「よ、よろしくお願いします!って、あれ? 私の腰に下がってるこの水晶……まさか……」


 透明な水晶の中には、錬金術師の古い石板が封印されていた。それは、ヨーロッパの錬金術師が残した「歴史改変の方程式」。カオス理論で説明される「蝶の効果」を、実際の歴史に適用できる禁断の数式が刻まれていたのだ。


「この世界線、絶対におかしいって! なんで平安時代の日本に錬金術の石板があるのよ!?」


 そう叫ぶ私の前に現れたのは、銀髪の少年。自称「時の管理者」という怪しげな存在だった。


「君は"歴史のバグ"を修正する存在として選ばれた。過去と未来の狭間で、新しい歴史を紡ぐのだ」


「はぁ!? 私に歴史を変えろって言うの?無理無理無理! だって私、前世でも人間関係めっちゃ苦手だったのに!」


「カオス理論を使えば、小さな変化で大きな結果を生み出せる。それが君の武器になる」


 少年は神秘的な微笑みを浮かべながら、私に古い巻物を手渡した。


「ちょっと待って。これって……源氏と平家の戦力データ?しかも確率論的な計算が……」


「そう、これは"歴史のソースコード"だ。これを使えば、歴史の流れを"デバッグ"できる」


 私の脳裏に、前世で研究していたカオス方程式が蘇る。蝶の羽ばたきは、竜巻を引き起こす。小さな変化は、予測不可能な結果をもたらす。


「でも、歴史を変えちゃっていいの? タイムパラドックスとか……」


「既に歴史は"バグ"っている。君の使命は、本来あるべき姿に戻すこと」


 そう言って少年は消えた。残されたのは、謎の石板と巻物。そして……


「お嬢様、御身支度の時間でございます」


 メイド……じゃなかった、侍女の声に我に返る。そうだ、今日は重要な会議がある。平家の運命を決める会議。


「了解!……って、あれ? 何で私、平安時代の言葉完璧に話せてるの? これって転生チート?」


 窓の外では、源氏の軍勢が着々と接近しているという情報が飛び交っていた。?史の教科書では、この後、平家は壇ノ浦で滅亡する。


「絶対に、運命は変えてみせる。数学の力で!」


 私の冒険は、こうして始まった。平安時代の陰謀渦巻く宮廷で、現代数学の知識を駆使して歴史を改変する。そう、これは歴史を救うための、とんでもチート転生物語!


●第一章:歴史のバグを見つけた平家の姫、はじめました


「えーと、まずは確率論的にシミュレーションを……って、この時代、紙と筆って高級品なんだった!」


 豪華な部屋で頭を抱える私。そうだった。平安時代では、紙すら貴重品。しかも、アラビア数字どころか、漢数字での計算を強いられる。


「お嬢様、源氏の使者が……」


「待った! その前に、ちょっと計算させて!」


 私は必死で床に数式を書き始めた。侍女たちは呆然。


「お嬢様……床に落書きとは……」


「これは落書きじゃない! 歴史を変えるための神聖な数式よ!」


 そうだ。カオス理論によれば、初期条件のわずかな違いが、まったく異なる結果をもたらす。つまり……


「源氏との和平交渉のタイミングを、あと3日ずらせば……勝機あり!」


●二章:チート能力は数学です!


「父上! 源氏との和平交渉、あと3日待っていただけませんか!」


 私は必死で平維盛に進言する。


「知姫……お前にそのような政(まつりごと)の事が分かるのか」


「カオス理論に基づく計算によれば……あ、えーと、占いです!とっても良い占いを!」


 そう、この時代で数学的予測なんて言っても誰も信じない。でも、占いなら……


「ふむ。確かにお前の占いは当たる」


 なんと父上、簡単に信じてくれた! 前世の知識が古代占星術として通用するなんて!


「でもお嬢様、その石板の計算、間違ってませんか?」


 突然声をかけてきたのは、謎の少年侍。さっきまでどこにいたの!?


「え? だって、初期条件をここに代入して……あ」


「その方程式、転写が間違ってる。源氏との戦力差は、もっと複雑な関数になるはず」


 少年は苦笑いを浮かべながら、床に新しい数式を書き始めた。


「ちょっと待って。その計算方法……まさかあなたも?」


「僕は源氏方の軍師として送り込まれた、元量子物理学者さ。君と同じ"転生者"」


「ええええ!?じゃあ私たち、現代科学の知識で歴史を奪い合うってこと!?」


 少年……いや、源氏の軍師は神秘的な微笑みを浮かべる。


「歴史は、既に量子的に重ね合わせの状態にある。我々の観測で、波動は収縮する」


「はぁ? 量子力学を持ち出さないでよ! 私はカオス理論派なの!」


 思わず素の私が出てしまった。周りの侍女たちは、目を白黒させている。


「お嬢様……何語でお話になられているのでしょうか……」


「あ、これは……その……秘伝の陰陽道の言葉! そう、陰陽道!」


 その時、廊下を走る足音。


「大変です! 源氏の大軍が、予想外の進路で接近!」


「えっ!?」急いで石板の計算を確認する私。


「そんな……このルートの確率は0.0003%しかないはずなのに……」


 少年が意味ありげに微笑む。


「カオス理論も量子力学も、所詮は確率の理論。絶対はない」


「く……ここまで計算したのに……」


 その時、石板が不思議な光を放ち始めた。


「これは……まさか!」


 石板に新しい数式が浮かび上がる。それは……


「時空間歪曲の方程式……? これを使えば……」


「お嬢様! 源氏の先遣隊が!」


 時間がない。この方程式を解くか、それとも……


「よし、決めた!」


 私は石板を掲げ、大声で叫ぶ。


「数学の女神よ! カオスの蝶よ! 私に知恵を!」


 突如、部屋中が青白い光に包まれる。そして……


●三章:数学VS量子力学! 運命の分岐点!


 青白い光が収まると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「これは……確率空間の可視化!?」


 空中に無数の半透明な映像が浮かび上がる。それはまるで、パラレルワールドの窓のよう。そこには様々な歴史の分岐点が映し出されていた。


「見える……。全ての可能性が……」


 源氏の軍師少年が目を見開いた。


「君の石板が、歴史の量子重ね合わせを具現化させた……!」


 私たちの目の前で、無数の時間軸が交差する。源平合戦の様々な結末が、万華鏡のように展開される。


「待って、これって……バタフライ効果の視覚化!?」


 そう叫んだ瞬間、私の手元の石板が輝きを増す。数式が立体的に浮かび上がり、空間に広がっていく。


「お見事。でも、僕の量子計算も負けてはいない」


 少年が取り出したのは、不思議な結晶。その中で量子の波動関数が?るように揺れている。


「へぇ、面白い。じゃあ、勝負よ! 数学VS物理学!」


「受けて立とう。歴史の正しい流れを導くのは、どちらの理論か!」


 私たちは同時に計算を始めた。床一面に数式が広がり、空中には確率の波が渦巻く。侍女たちは完全にパニック状態。


「お嬢様が陰陽師に!?」

「いいえ、これは西洋の魔術です!」

「何を言っているの、明らかに朝廷の秘術よ!」


 混乱する周囲をよそに、私は必死で計算を進める。


「ふふ、この式を∂tで微分して……」


「なるほど、でも量子位相はこうなる」


 突如、廊下から怒号が響く。


「源氏軍、北門に到達!」


「計算が、間に合わない……」焦る私。


 その時、少年が意外な言葉を投げかけた。


「ねぇ、協力しないかい?」


「え?」


「君のカオス理論と僕の量子力学。組み合わせれば、もっと正確な予測ができる」


「まさか……数理物理学の統一理論!?」


 私たちは急いで新しい方程式を組み立て始めた。カオスの方程式と波動関数が、美しく調和していく。


「これは……まるで平家物語の楽譜のよう」


「源氏物語の言葉とも重なる」


 私たちの書いた数式が、まるで古(いにしえ)の物語のように織り上がっていく。そして……


「できた! これが答えよ!」


 私と少年の手元で、光る数式が最終的な形を結んでいく。床一面に広がった方程式の群れが、まるで生き物のように蠢きながら、一つの答えへと収束していく。


「これは……まさか」


 私の声が震える。目の前に浮かび上がった答えは、あまりにも衝撃的だった。


「源氏の勝利でも、平家の勝利でもない」少年が呟く。「これは……」


「第三の道」


 方程式は、源平両軍による新しい統治体制を示していた。カオス理論が描き出す蝶の軌跡は、両家の血を引く新たな皇統の誕生を予言する。それは、戦いではなく和合による未来。


「見て、この変数!」私は床に書かれた式の一部を指さす。「平家の雅びと、源氏の武の力が……完全な黄金比で調和している」


 少年は自身の量子方程式を重ね合わせる。「君の言う通りだ。波動関数の収束点も、同じ結果を示している」


 私たちの周りで、数式が美しい光の渦を作り出す。それは平安時代の雅な装飾文様のようでもあり、源氏の刀剣が描く冴えた軌跡のようでもあった。


「でも、こんな結末……誰も望んでないはず」


「いいえ」少年は静かに微笑む。「むしろ、誰もが密かに望んでいた未来かもしれない」


 方程式は更に具体的な数値を示し始める。新たな統治体制下での税制、軍事力の配分、朝廷との関係……全てが完璧な均衡を保っている。


「理論上の美しさだけじゃない」私は息を呑む。「これは……実現可能な解」


 数式の中に、希望が見えた。血で血を洗う戦いを避けられる可能性。歴史の流れを、静かに、しかし確実に変えられる道筋。


「じゃあ、これが私たちの答え?」


 少年は頷く。「君のカオス理論と、僕の量子力学が導き出した、唯一の解」


 その時、方程式が最後の輝きを放つ。それは、まるで未来からの光のように、私たちの進むべき道を照らしていた。


「まさか、こんな方法が……」


 少年と目を見合わせる。互いに頷き合う。


「じゃあ、計画実行!」


 こうして、誰も知らない新しい歴史が動き出そうとしていた。


●四章:これが私たちの答え!


「父上! 源氏の皆様!私たちの計算結果を見てください!」


 私は勇気を振り絞って、両軍の前に飛び出した。少年……源氏の天才軍師も私の隣に立つ。


「我が軍の軍師ではないか! どういうことだ!」


 源氏の武将が叫ぶ。


「この戦いの結末は、既に計算済みです」


 少年は落ち着いた声で告げる。


 私たちは同時に数式を掲げる。光の帯となった方程式が、空中で交差する。


「この方程式が示すのは、平家でも源氏でもない、第三の未来」


「源平合一。それこそが、この国のあるべき姿」


 すると、不思議なことが起きた。私たちの掲げた石板と結晶が共鳴し、巨大な立体地図を空中に描き出す。


「見てください。このままでは、どちらが勝っても国は分断される」


「でも、力を合わせれば……こんな未来が」


 地図が変化し、平和な未来図が浮かび上がる。両軍の武将たちが息を呑む。


「まさか、そんな未来が……」


「確率は低いが、ゼロではない。我々の選択次第で……」


 その時、天からまばゆい光が差し込んだ。


「見える! 蝶の羽ばたきが……」


「量子の波が収束していく……!」


 私と少年の計算が正しかったことを、世界が証明しようとしていた。


「お嬢様の……いや、姫君の言葉には従いましょう」

「源氏の天才軍師が保証するというのならば……」


 両軍の間で、しばし沈黙が流れる。そして……


「源平合一……良い響きだ」


 父上が、ついに決断を下した。こうして、歴史は新しい方向へと歩み出した。



●エピローグ:新しい歴史のために


 それから数ヶ月後。平安京の新しい学院で、私は講義を行っていた。


「今日は、確率論の基礎について……」


「先生、その式の意味が分かりません!」


 教室には、源氏と平家の若者たちが机を並べて座っている。


「ふふ、じゃあ説明しよう。これはね……」


 黒板の前では、例によって少年……いや、共同教授の彼が複雑な量子式を展開している。


「いつになったら、この式、完成するんですか?」


「それはね」私たちは顔を見合わせる。「未来永劫、完成しない。だって……」


「歴史は、常に計算中だからです」


 私たちの教室の窓から、新しい時代の風が吹き込んでくる。


 これは、数学とSFと歴史が交わる、ちょっと不思議な物語。でも、これが私たち転生者が選んだ答え。


 きっと、どこかの世界線では、また違う歴史が紡がれているのかもしれない。でも、この世界線を選んで良かった。


「次は、カオス理論について教えましょうか」


「いいえ、今日は量子力学の授業です」


「もう!いつまでも競争してるんだから!」


 こうして、新しい歴史は、ゆっくりと、でも着実に動き出していった。


                fin.



●エピローグ:確率と波動が重なるとき


 満月の夜、学院の天文台で、私は星々の動きを計算していた。


「やっぱり、この軌道にカオスの要素が……」


「相変わらず熱心だね、知花」


 突然声をかけられて、私は振り返る。そこには例の少年……榊原奏真(さかきばらそうま)が立っていた。


「もう、驚かさないでよ! っていうか、いつの間に私の名前を知ったの?」


「量子的な直感、かな」


 彼は意味ありげな微笑みを浮かべながら、私の隣に座る。


「知花は、僕たちの計算が正しかったと思う?」


「確率論的には最悪の結末を回避できたわ。でも……」


「でも?」


「私たち自身の未来は、計算できてない」


 月明かりに照らされた彼の横顔を、私は密かに見つめる。


「実は、それについても計算してみたんだ」


「え?」


 奏真は懐から一枚の紙を取り出した。そこには複雑な数式が書かれている。


「これは……まさか、私たちの……」


「うん。僕たちの波動関数」


 私は思わず紙を覗き込む。そこには見覚えのある数式が。


「ちょっと待って。これ、私が昨日解いていた方程式と……」


「完全に共鳴している。僕の量子方程式と、君のカオスの式が」


 私たちの肩が触れ合う。月の光を受けて、数式が淡く輝いているように見えた。


「奏真……私ね、転生した時から思ってたの」


「何を?」


「こんな風に、理論の違う私たちが、出会えるなんて……確率低すぎるって」


 彼は静かに笑う。


「でも、量子力学では確率の低い事象こそが、最も美しい干渉を起こす」


「もう、物理の話じゃないでしょ!」


 頬を膨らませる私に、奏真はさらに近づいてくる。


「知花。最後の計算をしよう」


「え……?」


「僕たちの未来の確率。今、この瞬間の……」


 天文台に、静寂が流れる。星々が、まるで息を潜めているかのよう。


「計算なんていらない」


 私は小声でつぶやいた。


「だって……この気持ちは、数式じゃ表せないから」


 奏真の瞳が、月明かりに輝く。


「君は相変わらず、僕の計算を覆してくるね」


 そして……私たちの距離は、ついに波動関数が重なり合うところまで縮まった。


「これが、私たちの答え」


 月の光を浴びて、二人の唇が重なる。その瞬間、不思議なことに天文台中の数式が淡く光りだした。


 カオス理論と量子力学。相反する二つの理論は、この夜、完璧な調和を奏でた。


(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【転生源平合戦短編小説】数式は運命を変える〜転生姫の源平数学戦記〜(約6,100字) 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ