第五話 ――村の異変

翌朝、僕はまだ薄暗い空の下、母親に頼まれた買い出しのために村の広場へ向かった。空気はひんやりとしていて、どこか不穏な気配を感じる。昨日までの練習で少しずつ魔術を扱えるようになったとはいえ、魔王の力を使うたびに、僕は心のどこかで自分が“危険な道”を進んでいる気がしてならなかった。


広場に着くと、村人たちがざわめいていた。どうやら、何か事件が起きたようだ。近くにいたエリンを見つけ、声をかけた。


「エリン、何があったんだ?」

「ロラン! 大変だよ! 村の外れで、また動物の死骸が見つかったの。それもただの死骸じゃない……何か黒い痕が残ってたらしいんだ」


黒い痕――その言葉に、僕の背中を冷たい汗が伝った。もしかして、魔王の力と何か関係があるのだろうか? 昨日の夜、僕が魔術を試していたあの森で、力が何かしら漏れ出した可能性は否定できない。


「具体的にどんな痕だったのか、誰か見たの?」

「うん、ガルス神父が確認してるみたい。さっき現場に向かったよ。ロラン、どうする? 私たちも見に行く?」


一瞬迷ったが、僕は頷いた。このまま放っておけば、さらに大きな問題が起きるかもしれない。少なくとも、神父の話を直接聞いたほうが良さそうだ。


現場での発見

エリンと一緒に村の外れにある現場へ向かうと、そこにはすでに数人の村人とガルス神父がいた。地面には動物の死骸が横たわり、その周囲に奇妙な黒い痕跡が広がっている。それはまるで焼け焦げたような模様で、中央から放射状に広がっていた。


「……ロラン、これって……」

エリンの声は震えていた。確かに普通の動物の死骸ではない。僕も初めて見るその異様な光景に、思わず息を呑んだ。


ガルス神父は死骸に目を凝らしながら、何かをつぶやいていた。僕たちに気づくと、眉間にしわを寄せて近づいてきた。


「ロラン、君も来ていたのか……これはただの事件ではない。何かしらの呪いや魔術によるものだ」

「呪いや魔術……?」

「この黒い痕跡を見たまえ。魔力の残留が感じられる。だがこれは普通の魔術ではない……闇属性の力だ。かつて私が王都で目にした古い記録と似ている」


神父の言葉を聞いて、僕の心臓が跳ねた。闇属性の魔力――それは間違いなく、魔王アルナールの力だろう。けれど、僕はそのことを口に出すわけにはいかない。


「もしかして、誰かが古城の呪いを解放しちゃったとか……?」

エリンが不安げに尋ねた。神父はしばらく考え込んでから、静かに頷いた。


「その可能性はある。だが、まだ断定はできない。この現象が単発のものか、それともこれから広がっていくのかを調べなければならない」


(単発のもの、か……もし僕が原因なら、止める方法を見つけなきゃいけない。だけど……)


脳内で魔王の声が響いた。

(フフ……愚か者どもめ。我の力を知るはずもない。だが小僧、これは貴様にとっても試練だ。どうするつもりだ?)

(お前……これ、本当にお前の力が漏れ出してるんじゃないだろうな?)

(我が力の影響かもしれぬが、意図的にしたわけではない。我とて完全ではないのだからな)


魔王の言葉は曖昧だが、どうやら彼自身もこの状況を完全には掌握していないらしい。それでも、この黒い痕跡が村人たちを不安にさせていることは事実だ。


神父への相談

ガルス神父は調査を終えると、僕に視線を向けてきた。

「ロラン、少し時間をもらえるか。君に話しておきたいことがある」

「……はい」


僕はエリンに「少し待ってて」と告げ、神父についていった。彼は僕を人目のつかない場所まで連れて行き、小声で話し始めた。


「ロラン……君、何か隠していることはないか?」

「えっ……?」

「私は村人には話していないが、この黒い痕跡から感じる魔力は、アルベリオ古城で感じた呪いの気配と酷似している。君が古城に行ったとき、何かあったのではないか?」


神父の鋭い眼差しに、僕は言葉を失った。正直に話すべきか、それともごまかすべきか――迷いながらも、僕は口を開いた。


「……実は、古城で……何かが僕に憑いたんです」

「何か、とは?」

「それは……魔王アルナール・ネグザレスの亡霊だと思います」


その言葉に、神父の表情が一瞬だけ凍りついた。だがすぐに落ち着きを取り戻し、深く息をついた。

「なるほど……それで、君はどうするつもりだ?」

「わかりません。でも、このままじゃ村に迷惑がかかるかもしれないし、なんとかしたいんです」


神父はしばらく黙って考えていたが、やがて頷いた。

「よかろう。ならば私も協力しよう。だが、この状況を解決するには君自身が自分の中の魔力を制御する必要がある。危険だが、それが最善の道だ」

「僕が……魔力を制御する?」


僕は自分の手を見つめた。まだ不安は大きいが、やらなければならないことがはっきりしてきた気がした。


次なる決断

教会を後にしながら、僕はガルス神父の言葉を反芻していた。

(魔力を制御する……僕にそんなことができるのか?)

(当然だ。我が力を活用するのだ、小僧。もっとも、貴様が無能ならば話は別だがな)

(……うるさいよ)


神父が協力を申し出てくれたことで少し心が軽くなったが、課題は山積みだ。この村と、自分自身の未来のために、僕はもっと強くならなければならない――そう決意しながら、夕焼けに染まる村を見つめていた。


――続く――

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一度死んだ悪の魔王が“心霊”化して主人公にとり憑いてきた件 高見もや @takashiba335

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