ボーンクラッシュ

古朗伍

ボーンクラッシュ

 それは真っ白い女の子だった。

 髪も肌も着ている服も何から何まで“白”い女の子。

 聞いた話によると10年以上入院しているらしい。


 と、まぁ、これが俺の退屈な入院生活で花開いた初恋にて集めた彼女の情報さ。ん? 気持ち悪い? ストーカー? うるせぇ! 思春期の男はなぁ……皆腹にイチモツ抱えてんだよ! お前らだって好きな女の子にちやほやされる妄想くらいはするだろ!


 そう考えるとオレは健全さ。これからちょっくら、彼女と話してくるからよ。お先~。

 あ、良い忘れてたけど、彼女、めっちゃ巨乳なのな。これ重要ね。






 キキー、ドンッ!


「高校生が轢かれたぞ!」

「誰か救急車呼べ!」


 オレの名前は川路孝太かわじこうた。思春期の真っ只中の健全な男子高校生さ。

 今、ボールを追いかけて道路に飛び出した子供を救うと言うヒーロー活動の末にトラックにドンッ! てぶつかられて倒れてる。


 痛ぇ……こりゃ……骨が折れてるな……

 あ、コレ人生で一度は言ってみたい台詞ね。


「大丈夫ですか!? 意識あります!?」


 救急隊員の人が覗き込みながら聞いてくる。痛くて喋れないので、親指を立てて意思表示。痛ででででで!! こくんって首を動かすだけにすりゃ良かった……


 その後、担架に乗せられてピーポーピーポー。普段は通る度に通行を止める救急車に心の中でチッ、と舌打ちしてたオレだが今後は感謝しつつ道を譲ろう。

 あぁ……モルヒネ打ってくれよぉ……痛みで意識がぁぁぁ……






「右手と肋骨にヒビが入ってます。経過を見ましょう」


 病室で、スヤっているとお袋がやって来て医者とそんな話をしていたので目を覚めした。


「本当にごめんなさい! ウチの子が……」


 オレがヒーローした女の子の親がお袋に何度も謝ってる。しかし、血も涙も無いお袋は、気にするなと言っていた。それオレの意志確認してから言う台詞じゃね?


「気にしないでください。いつもニボシばっかり食べてまして骨だけは頑丈なのが取り柄な息子なので」


 流石にトラックは無理だよ。

 詳しい話によると、トラックの運転手は急ブレーキを踏んで、その反動だけがオレをドンッ! したらしい。だからこの事故で破壊されたのはオレの骨だけだ。


「入院費用と治療代はトラックの運転手に請求しますので」


 そこらへんはキッチリするお袋。まぁ、トラックの運ちゃんも、逃げずにオレの救助活動してくれたそうなので事件にはしない方向で行くらしい。


 と言うわけで入院生活がスタート。

 合法で学校休めるラッキー! 的な事は全く無かった。

 利き手である右手が使えず、トイレや食事にも苦労し、脇腹がキリキリ痛む。絶えず痛み止めを打ってもらうワケには行かないので、じっとしておく事が一番の治療だ。後、お袋の差し入れニボシをポリポリ。


「…………暇だ」


 入院して一週間。入院して二日程は夕方になると友達なんかも来てくれるのだが、奴らも高校生。新鮮味が無くなると来るのが面倒になったのかLINEで済ませる様になる。まぁ逆の立場ならオレもそうなるのであまり気にしない。


「……なんか……起こらんかな……」


 オレは何かしらの刺激を求めて、夜中に病室から出て徘徊して見る事にした。ほら、定番じゃん? 夜の病院での怪奇現象。体験すりゃ、話のネタになるし。

 脇腹のキリキリ痛みで恐怖心が半減している事もあって決定的な何かを眼に納めてやろうと、かなり遠出したね。連絡橋なんかも渡って隣の病棟に移動たりしてさ。

 それだけ退屈だったわけよ。そんでもって、


「――――――」


 二号棟の中庭で月明かりに照らされる彼女を見つけた。






「……なんだ、ありゃ……」


 オレは思わず眼を疑った。何度も目を擦った。痛みが見せる幻覚かとも思った。キリキリ……痛てて……幻覚じゃねぇ。


「…………」


 それは真っ白い女の子だった。

 髪の色も肌も着ている服も何から何まで“白”い女の子。ちなみ美少女で巨乳。

 容姿も学校の女子とは比べモンにならない程にハイレベル。学校に居れば間違いなく特異点。告白しかされない学校生活を送るだろう。


 オレはそっと彼女に気づかれない様にその場から去る。

 腰抜けチキン? まぁ、聞けよ。物事には順序ってモンがある。彼女にも都合があるかもしれないだろ? オレは紳士だからな。その辺りを綿密に調査してから話しかけるとするぜ!






「隣の病棟の白い女の子?」

「そうです。先生なんか知ってます?」


 オレは診断に来た先生にあの子の事を聞いた。夜に病室を抜け出した事はナイショにしてだ。


「VIPの人だね。確か、梟院長せんせいが直接関わってる患者さんだから、詳しい事は何も知らないし個人情報の守秘義務もあるから話せないよ」

「あ、そうっすか」


 まぁ、仕方ないか……。外から情報を仕入れる事が出来ないのなら、自分の足で調べるまでだぜ!


 と言うワケで今夜からスニーキングミッションを開始する。

 一応、言っておくがオレは断じて変態ではない。美少女と巨乳に釣られた健全な思春期の男子だ! お前らも広告で巨乳の女がよぎったら一瞬でも目を止めるだろ? オレと同じだよ(ドヤァ)。


 夜に隣の病棟にスニーキングして、隠れて電子煙草を吸ってた箕輪って看護師さんに捕まって、煙草を見逃すのを条件に女の子の情報をまとめて貰った。守秘義務とは……


 情報を纏めると彼女の名前は黒船真白くろふねましろちゃん。16歳(同い年)。父親は会社の社長をしてて、母親はその会社の秘書らしい。

 兄弟、姉妹はおらず、一人っ子。なんと、10年も入院生活をしてるらしい。その為、友達はSkypeによる海外勢との交流だけらしい。

 何故10年も入院しているのかその理由を箕輪さん(女)に聞いたが、馬鹿には分からないから説明が面倒、って理由で教えてくれなかった。そして最後に、


「コウタ。真白は高嶺過ぎる花だからね。好きになった後も苦労するから中途半端は止めとけよー」


 ネチネチした言い回しの箕輪さんは、そろそろ戻るわ、と電子煙草を仕舞うと匂い消しの香水をシュッシュッして去っていった。


 箕輪さん……思春期の男子を嘗めちゃいかんぜよ。目の前にフリーの美少女が居るなら度胸が無くともお近づきになりたいと思うのは人類共通さ! さぁて、明日から話しかけてみるかい。






 オレは今夜に向けて完璧なコンディションを整えた。

 まず、昼間に先生に痛みが酷いと演技をして痛み止めを打って貰い、夜には無痛となる。これで100%のスニーキングが出来るぜ! 布団には寝てる風に擬態して完璧だ。さぁてと、巨乳の真白ちゃんに会いに行くかい♪


 こそこそとナースステーションを完璧なスニーキングで通過。隣の病棟へも問題なく侵入。

 そして、中庭をこそりと覗く。


「…………」


 い、居ない!? ハッ! しまったぁぁ!! 冷静に考えれば彼女が毎日ここに来る確信は何も無いじゃないか! 何をやっているスネーク! 性欲を持て余している場合じゃなかった! もっと彼女をストー……いや、調べておくべきだった!


「あの……」

「うひょっひはっ!?」


 オレは背後から声をかけられて驚いて振り返る。

 そこには、暗い廊下でもほんのり光って見える様な白い妖精――いや、真白ちゃんが立っていた。

 数日前に座ってる所を見ただけだったが、立ってる所も可愛いじゃない。て言うか、存在事態が可愛い。抱きしめてぇ。


「ふふ。あなたが孝太さんですか?」


 オレのリアクションに彼女が笑う。

 なん……だと……? オレの名前を……真白ちゃんが? しかもいきなり下の名前呼びとは……好感度バグってなぁい?


「あ……違ってましたか? すみません……私……」

「あ、いやいや。孝太ですよ、あなたの孝太です。はい」

「ふふ。箕輪さんの言ってた通りに……面白い方ですね」

「箕輪さんからオレの事を?」

「はい。病室の掃除に来る時にお話しをするんです。コウタさんが私と話したいって事を聞いて、私も会いたかったです」


 なんだ、この可愛い生き物……お持ち帰りしてぇ。


「お話しを伺っても?」

「是非!」


 そんで、オレは真白ちゃんと中庭のベンチに座った。当然隣同士ですが、なにか?


「改めまして私は黒船真白くろふねましろと言います」

「あ、川路孝太かわじこうたです」


 座った状態でペコリ。

 互いに名前は知っているが、改めて名乗るのは紳士として当然の嗜み……皆も覚えておこうな!


「黒船さん」

「真白で結構ですよ。私もコウタさんって呼んでますし」


 しっ!(心の中でガッツポーズ)

 オレは合法的に真白ちゃんと名前呼びの許可を貰った。こりゃ、相当距離近いんじゃないのー?


「コウタさんはおいくつですか?」

「16歳。ぴかぴかの一年生だよー」

「ふふ。それなら同い年ですね。私も16です」


 知ってます。


「羨ましいです。私は……コウタさんみたいに学校には通えませんから」


 少し影を作る真白ちゃん。ちょっと申し訳ないけど、箕輪さんが話してくれなかった事情を聞いてみるか。


「何かの病気?」

「……進行性骨化性線維異形成症しんこうせい こつかせいせんいいけいせいしょうって知ってます?」

「こつかつせ……なんて?」


 なんだその早口言葉で苦戦しそうな病名。


「簡単に言いますと、身体が骨になる病気です。私はそれを患っています」


 真白ちゃんは自分の症状について話してくれた。

 ソレは筋肉や腱、筋が骨になってしまい、次第に身体が動かなくなる遺伝子の病らしい。そんな、RPGの状態異常みたいな病気があるとは……


「私は5歳の頃に風邪で病院の診断を受けた時に発覚したんです。早期発見だったので、大事に至る前に薬で症状を抑える事が出来ています。白髪は薬の副作用です」

「えっと……普通に見えるけど……」

「動ける程度の運動はしていますよ。けど骨は身体を動かせば消費され、新たに作られます。その生成箇所が私の場合は臓器や筋肉も含まれるようなので、なるべく動かない様に言われているのです」

「じゃあ……オレと会うのは実はヤバい?」

「薬も飲んで体調は整えて来たんで大丈夫ですよ。コウタさんとお話しするのは楽しみだったので」


 天使っ! 妖精じゃなくて天使! あ、いや……そうじゃなくて!


「それって治るの?」

「現時点では症状を抑えるくらいしか出来ません。人類の進歩に期待ですね」


 と、微笑んで見せる真白ちゃんだが、その返答に慣れっこと言った感じだ。


「今はコウタさんの事を聞きたいです。高校生生活ってどんな感じですか?」


 ソレが主題だったのだろう。キラキラした瞳を向けられて心臓にキューピットの矢を打たれて、うっ、ってなる。

 オレとしては真白ちゃんの事をもっと聞きたかったが、彼女には時間が限られてる。だから色々な事を話してあげた。

 とは言っても、目を見張るようなエピソードはない。日常で起こったちょっとしたトラブルの話ばかりである。

 特に小学からの腐れ縁なダチ公共との馬鹿な出来事ばかり。ちなみに今もそいつらとは同じ高校で同じクラスだったりする。


「私もコウタさんのお友達に会ってみたいです」

「ははは。機会があったら紹介するよ」


 ゼッテー、奴らに真白ちゃんを近づかせねぇ!

 その後も真白ちゃんはつまらないと思った話も楽しそうにリアクションしてくれた。

 気を使ったモノではなく、本当に楽しんでくれている反応だ。


「そんで、道路にボールを追いかけて飛び出した女の子を助けて、肋骨と右腕を犠牲にオレは入院」

「肋骨もですか?」

「今は痛み止めが効いてるから痛くないよ」


 オレは何て事無い様子で右腕を掲げる。すると、真白ちゃんは上げたギブスの腕に手を添えるとを優しく下ろした。


「痛みが無くても治るまで無茶したら駄目です」

「あ……うん。そうだね」


 近くで見ると……真白ちゃんって本当に可愛いわぁ。何て言うか……俗世に染まってない花って感じ。クラスで、ギャハハ! って笑ってる女子と同じ生物じゃないな。こっちが本物だったか。


「そろそろ部屋に戻らないといけませんね」


 時間を見ると日付が変わって既に一時間経っている。流石に擬態も限界になってるかもしれない。


「名残惜しいけど……って真白ちゃん、なにやってるの?」

「ギブスに何か書くってやって見たかったんです。あ……すみません」


 少し浮かれていた真白ちゃんは書いた後で謝ってくる。

 ギブスにはダチ公共のラクガキの中に『真白参上ー』と文字の追加。よし、このギブスは家宝にしよう。


「いや、いいよ。全然いい。寧ろ賑やかになった」

「すみません……はしゃぎ過ぎました」


 それだけ真白ちゃんが楽しいならオレは何でも良い。

 オレが立ち上がると真白ちゃんも立ち上がって――


「あっ……キャッ」

「あっとぉ!!」


 足が縺れた真白ちゃんが転びそうになったので、オレは咄嗟にギブスの腕を前に回し彼女の身体を支えた。

 良い匂いと、軽い身体。そして、ギブス越しでも感じるパイ圧――


「! ご、ごめんなさい!」


 真白ちゃんは折れた腕で支えられたと認識して即座に体制を整えると丁寧にお辞儀をする姿勢で謝ってきた。


「大丈夫大丈夫。無問題モーマンタイさ」


 痛みも無いし。真白ちゃんに触れて逆にこっちが申し訳ない。めっちゃ柔らかかった……もう一回やってくんねぇかなぁ。


「本当に……」

「大丈夫、大丈夫。ほら、もう部屋に戻らないとでしょ?」


 心配する真白ちゃんの顔でお別れは嫌なのでオレの方からも切り上げる事にした。


「わかりました。明日も会えますか?」

「もちろん! 絶対に来るよ! この時間でいい?」

「はい」


 嬉しそうな微笑みを頂きました。次はスマホでツーショットだ。その時は合法的に身体を寄せられるぞ!






「うん。ヒビが入ってるね」

「馬鹿たれが」

「痛てっ」


 若干の下心を胸に眠った次の日。

 やけに脇腹が痛くて動けなかったのでレントゲンを撮って貰ったら肋骨のヒビが復活していた。

 それを先生から聞いたお袋の拳骨が脳天に落とされる。怪我人に何しやがる……


「安静にしてると看護師からは聞いてるけど。川路君、何か心当たりは無いかい?」

「心当たり……」


 転びそうになった真白ちゃんを支えた時だろう。腕はギブスがあったので問題なかったが、肋骨には負荷がかかって、治って来ていたヒビが広がった様だ。


「ちょっと……筋トレを」

「このマヌケが!」

「あだ!?」


 二発目の拳骨。頭蓋骨にヒビが入るよぉ……


「しばらく安静にね。特に肋骨は砕けた骨の破片が細かく散ってしまうと心肺機能に障害が出るかもしれないから」

「……はい」


 その後、罰として痛み止め無しで一晩過ごす事になった。加えて、看護師さん達の見回りの頻度が増えた為に、抜け出す事が出来ない夜を過ごす。

 真白ちゃんに……どうにかして連絡しねぇと……

 方法を考えていたが、痛みでそれどころではなく、その日の夜は意識が暗転した。


 そして、次の日も、また次の日も身動きが取れず、痛み止めの偉大さを知る。ニボシブーストを行うも、まともに動ける様になったのは真白ちゃんに会ってから三日後だった。






「えっと……すみません」


 オレは昼間に隣の病棟のナースステーションへ足を運んでいた。

 別棟患者のオレを見て、看護師さん達は怪訝な顔をしていたが箕輪さんが、よぉー、廊下から手を上げて歩いてきた。

 香水の香り……隠れて電子煙草を吸ってたっぽい。


「ほれ」


 そして、自販機の集まる場所まで連れて来られると箕輪さんはポケットから、くしゃくしゃの手紙を取り出すと渡してきた。


「え……なんです、コレ?」

「真白から」

「真白ちゃんから?」


 ガコン、と自販機でお茶のペットボトルを買う箕輪さん。

 くしゃくしゃだが、綺麗なデザインの封筒に入ってる。真白ちゃんの純真な様が垣間見えるぜ! でも……


「なんで、くしゃくしゃなんです?」

「三日間、アタシがずっとポッケに入れてたから。さっさと取りに来いよー、二度ほど洗濯機に回す所だったぞー」

「手紙の中身とか見ました?」

「見てないよ。そこまでアンタと真白の関係に野暮する気は無い。まぁ、大体想像つくけどねー」


 カシュ、とペットボトルを開ける箕輪さんから目を外し、オレは手紙を読む。



 こんにちは、コウタさん。

 貴方がこの手紙をいつ読むことになるか分かりませんが、これを読んでいる頃には私はこの病院には居ないでしょう。

 コウタさんと会話をした次の日、父が私の病状に関して先進的な治療をしている施設が海外にある事を調べて来てくれたんです。

 行くかどうかを聞かれて、もちろん私は行く事にしました。長い間、病気のせいで父や母、多くの人に助けられてばかりだったので早く治って皆を助けられる人間になりたいから。

 本当はコウタさんには直接会って伝えたかったのですが……箕輪さんに聞いたら治療中だからって会えなくて、それが私のせいでもあったみたいで……本当にごめんなさい。

 父にその事を説明し、コウタさんのお母様に直接謝りに行きました。お母様は笑って許してくれて気にしなくて良いと言ったんですが、追加の治療費だけでも負担すると言う形で話はまとまりました。

 その時、眠ってるコウタさんに少し話したいと言ったんですが、元気になってから息子に会いに来て、とお母様に仰られたので元気になってきます。

 連絡先を書きたいのですが、かなり情報が制限される施設のようなので駄目らしいです。

 だから……次に会うときは、また私の方から声をかけますね。


 黒船真白より、川路孝太さんへ――



「…………箕輪さん」

「んー?」

「真白ちゃん、どこの施設に行ったんですか?」

「さぁねぇ。梟院長せんせいなら知ってっかもだけど、個人情報だからねぇ」


 オレは手紙を畳むと封筒に戻す。

 なんだか……ぽっかり胸に穴が空いた気分だ。コレが彼女に骨抜きにされた男の――


「失恋したかー?」

「…………」


 ニヤニヤしながら聞いてくる箕輪さん。失恋って心は悲しみよりも虚無になるんすね……






 二年後――


「コウタ、ほらノート出しなよ」

「ん」


 オレは高校三年生になった。

 二年前の肋骨と右腕の骨は完全に完治し、今や旧式カノン砲の直撃でさえも耐えられる強度を持つ……すまん嘘だ。


 あれから真白ちゃんがどこに行ったのかネットを使って調べたりしたが分からなかった。海外と言うことで英語の勉強だけは徹底的にやったりして二年の歳月を流しても、彼女に対する気持ちは僅かにも薄れなかった。


 また私の方から声をかけますね。


 その言葉だけを忘れずに、文武において彼女の隣に相応しい人間になれる様に努力したのだ。

 その結果、今や学校では学年順位10位内を常にキープし、道場なんかに通って身体も鍛えた。

 思春期で感じる誘惑はかなり多かったと思う。こんな高スペックだと後輩から告白される事も……まぁ一、二回はあった。球技大会じゃ本職顔負けの活躍をしたしな。

 けど、オレの中じゃ真白ちゃんが最推しで他の誘惑に魅力を感じなかった。

 彼女が今どこにいて、いつ現れるのか分からないと言うのに、骨抜きにされたままなのだ。


「なぁ、ツカサ」

「なに?」


 オレは小学からの腐れ縁の女子であるツカサに聞く。ちなみにクラスのノートを集めてるのもソイツ。


「お前の初恋いつだった?」

「あんた、まだ例の妄想彼女の事考えてるの?」

「なっ! 妄想じゃないもん! 本当に真白ちゃん居たんだもん!」

「だって証拠ないじゃん」

「手紙! 見せたろ!」

「自分で書いたんでしょ? 入院中、暇みたいだったし」

「お袋も彼女に会ってるんだ!」

「おばさんは、思春期なら妄想の一つもあるのが健全って言ってたじゃん。アタシは、うわ……ってなったけどね」


 ちなみにギブスは外す時に、ちょうど真白ちゃんのメッセージ部分を切り開かれた為に証拠にはならなかった。


「真白ちゃんいるし! オレに会いに来るし!」

「何年繰り返してんのよ。後、その真白“ちゃん”って言うの止めなって。キモいから」


 うぐぅ……、腐れ縁でも女子にそう言われると心にクるぜ……

 ツカサは教壇に集めたノートを置く。朝礼が始まったらそのまま先生が持っていくのだ。

 朝から、ツサカの言葉の右フック、左フック、アッパーを食らったオレは机にノックダウン。


「ほらー、席につけー。朝礼始めるぞー」


 先生がガラガラと教室に入ってきた。がやついていたクラスが次第に静かになるが、オレは顔を伏せたままだった。


「今日は――」


 先生が何か言って、クラスがざわついてるけど、スルーでいい。今のオレの心は悲しみで溢れているのだ……


「それじゃ、席は――」


 と、人が近づいてくる気配と視線にオレは流石に顔を起こした。すると、目の前には――


「またお話をしませんか? コウタさん」


 女子生徒の制服に身を包む、彼女の姿があった。


 その後の学校生活は高校生最後の年にも関わらず、彼女の隣に座る一席を求める『真白ウォー』が始まるのはまた別のお話だ。




黒船真白↓

https://kakuyomu.jp/users/furukawa/news/16818093092683899341

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