桜の季節、新入生オリエンテーションの登山準備を進める山岳部員・佐々木と森田。彼らは山中であるものを発見し、それが過去の出来事と深く結びついていることを知る。そして、二人は選択を迫られることに――。
佐々木はごく普通の高校生ですが、森田との会話を通じて次第に価値観が揺らいでいきます。最初は正しい選択をしようとするものの、やがて迷いが生じ、自分が何をすべきか分からなくなる。その心理の変化がリアルに描かれます。
一方の森田は冷静で論理的ですが、その裏には過去の影を抱えています。彼の穏やかさと、時折見せる感情の揺れが物語に深みを与えます。
文章は簡潔でスピーディー、それでいて臨場感あふれる描写が際立っています。特に死体発見の瞬間の描写は緊張感があり、登場人物の反応と状況が巧みに絡み合っています。
心理描写も見事です。特に「ゴミを拾っただけ」というフレーズが強い印象を残します。ラストの描写も印象的で、物語全体の緊張感とは対照的に穏やかに描かれます。しかしその静けさの中には言葉にしがたい余韻が残り、読み手に深い考察を促します。
サスペンスと心理ドラマが融合する本作。登場人物の葛藤や、一種の密閉空間である山という環境が独特の緊張感を生み出し、読者に「自分ならどうするか?」と問いかけてくる、考えさせられる作品です。
※読み合い企画からのレビューです
山岳部の部員である主人公は、友人の森田と共に白骨死体を見つけてしまう
しかし、森田にはこの死体に心当たりがあるようで──という導入から始まる本作品は、不思議な読後感のある短編だ
事件ではあるものの、それは今さっき起こったものではない
犯人がわかったものの、彼らに真実を突きつけるわけでもない
今や白骨となった死体の自業自得であり、誰一人として彼の弔いすら求めていない
善意には善意が、悪意には悪意が返ってくる
たとえ死んだとしても、悪意が善意に変わるわけもない
優しくなくてもいい、せめて誰かに恨まれることのないように生きたいと、そんなことを考えさせてくれる一作だ
雄大な自然と対峙する山岳部の日常に、突如として転がり込んだ白骨の真実。
そこには、暴力に抗った若者たちの痛切な選択が横たわっていた。「正義」という言葉では片付けられない現実を、作者は繊細な筆致で描き出す。
印象的なのは、事件の核心に迫るほど鮮やかに浮かび上がる登場人物たちの人間性だ。
過去の暴力に対する新たな暴力。その連鎖を断ち切ろうとする決断に、私たちは自らの倫理観を問われることになる。
最後のカラオケのシーンは秀逸だ。青春の輝きと罪の影が交錯する中で、なお前を向いて生きようとする若者たちの姿に胸を打たれる。
山という巨大な沈黙者が、すべてを包み込んでいく。
高校生の佐々木と森田が、新入生オリエンテーリングの準備をしている時に事件は起こりました。
新入生オリエンテーリングでは山登りをするため、二人は登山経路確保の為にロープ張りをしていたのですが、その最中に白骨死体を見つけてしまいます。
この死体は誰なのか。
森田は心当たりがあるようで、過去に行われたかもしれない『完全犯罪』について佐々木に語り始めます。
物語の中心には、『白骨死体』『完全犯罪』『隠蔽』があり、そうするしかなかった子供達の辛さと、青春の眩しさと爽やかさを感じました。
暴いちゃいけない謎もある。そう考えさせられるミステリーです。
ぜひ、読んでみてください!