庭の花壇の下から骨が出た話

よし ひろし

庭の花壇の下から骨が出た話

 庭の花壇の下から骨が出てきた。


 あなたならこんな時どうしますか?


 警察に?

 それが普通かもしれませんね。でも、その前に、その骨が何の骨か確認した方がよくないですか?

 俺もそう思い、とりあえず出てきた骨の周囲を更に掘ってみたね。

 結果――


 人骨だった。


 見事に一人分、きっちり揃っている感じだったね。頭からつま先まで。

 さて、そこでもう一度問おう。


 あなたならこんな時どうしますか?


 間違いなく警察に連絡する?

 まあ、そうだろうね。

 俺だってそうするさ、ここが借家だったり、中古で買った家だったらね。

 でも、違う。


 ここは、俺が生まれ育った家なのだ。

 大学入学を機に都会に出るまで住んでいた実家だ。


 俺が家を出た後は父親が一人で住み続けていたが、つい半年ほど前に脳溢血でぽっくり逝っちまった。ひとりっ子で他に家族もいないため、遺品の整理などで家にちょくちょく戻っていた。そのうちに里心がついてしまい、そのまま舞い戻ってきたばかりだ。仕事の方でもプライベートの方でも少しゴタゴタがあって、心機一転したかったのもある。

 そして、見つけたのが例の骨だ。


 はぁ~、困ったね……


 ここは、俺の生まれる前に親が新築で建てた家。築三十年以上ということだが、その間、他人の手に渡っことはなく、家族以外が住んだこともない。

 家を建てる前から庭に埋まっていた? さすがにそれはないだろう。それほど深くは埋まってなかった。家を建てる時整地をすれば必ず見つかる深さだ。


 となると……、簡単に警察へと連絡するわけにはいかない。分かるだろう?


 家族の誰かが、この骨を、いや、この骨の持ち主を庭に埋めたことになる。

 俺、ではないぞ。となると――


 親父か……


 それ以外に考えられない。だって、もう一人の家族、母親は俺が十歳の頃、家を出て行ってそのままだ。まさか、その母が――

 そこで、俺はふとイヤな考えが頭をよぎった。


 まさか、母さんが……


 母が家を出た原因は浮気だった。職場の同僚とそういう関係になり、そのまま二人で消えた。小さかったのでよく覚えていないが、あの頃両親はよくケンカをしていた。そして、ある日、母が突然いなくなって――消えた……、そう消えたのだ。


 父は母を愛していた、恐らく、多分。だから母が好きで精魂込めて手入れしていたあの庭を、その後も綺麗に保っていたのだと――そう思っていたが……


 まさか、母さんなのか……


 あの庭の骨は――いや、そんなことは、うーん…、ありえるか……

 参ったね、これは……。どうすべきか悩みどころだ。


 あの骨が母だとして、さて、気になることがもう一つある。

 あの当時、母が消えたあの頃、問題の浮気相手も消息を絶っていた。なので二人して駆け落ちしたんだろうと噂されたものだが――


 この家にはもう一つ、人骨が埋まっているかもしれない……


 花壇の下には一人分しかなかった。しかし、消えたのは二人。となると……

 俺は当時の記憶を懸命に引き出してみた。二十数年も昔のことだからなかなか難しかったが、そこで一つ思い出したことがある。


 コンポストだ。


 いわゆる生ゴミの堆肥化って奴だが、母が消えた後、それまで見向きもしなかった庭の花壇の手入れを始めた父が、そこで使う土も自分で作るんだと、勝手口の脇に少し大きめの木箱を設置した。その中に家で出た生ゴミを突っ込み、後は微生物たちが勝手に堆肥へと変えてくれるというものだが、何故突然そんなものをと疑問に思ったのを思い出した。

 匂い対策はしていたようだが、それでも暖かい日は腐敗臭が漏れ出て、イヤだったことも覚えている。


 もしかして、あの下に……


 愛するひとを奪った相手だ。間違っても母と同じ場所に埋めたりしない。そんな憎い相手を生ゴミの下に――ありえる。親父の物凄い恨み妬みの念を感じる。


 どうする、確かめてみるか?

 ――いや、やめておこう。頭痛の種を増やすだけだ。


 さて、ここでもう一度問いたい。


 あなたならこんな時どうしますか?


 悩みますよね。関係者が両親だ。それに、昔のこと。みんな忘れてる。犯人であろう親父も死んだ。真実はもう闇の中、いや土の中か、地獄の底か……


 ふぅ~、それに警察は困る……


 俺はそこで部屋の隅に置かれたモノを見た。毛布に包まれた棒状のもの。いや、人型と言った方が正しいか。だって、あの中にいるのは――


 佳菜恵かなえ、お前が悪いんだぞ…。結婚してここから一緒に始めようと言ったのに……


 絶対に嫌。田舎なんて行かない!

 なんて言って、別れると言い出すから、つい――首をぐっと……


 はぁ~、血なのかね、親父。親子そろって愛するものを手に掛けるなんて……


 それとも、先祖に何らかの悪行があって呪われているとか――

 ふっ、まさかね。――ま、仕方ない。当初の予定通りで行こうか


 俺がなんで庭の花壇の下の骨を見つけたのか――当然、そこを掘り返したからだ。それはどうして――もうここまでくれば皆にもわかるよな。愛するものを埋めるためさ。まさか先客がいるとはね……


 仕方ないね。ここは嫁姑になってもおかしくなかった二人、仲良く揃って庭の花壇の下で眠ってもらいましょう。後は親父と同じ。花壇の面倒を見ながら、この家で過ごしていくさ。死ぬまで、ね……



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