ドラゴンの骨をさがして

にゃべ♪

ドラゴンの骨の伝説

 遥か昔、地球に巨大隕石が落下した。その隕石が地表に衝突すると、その衝撃で地球の全生物が絶滅する事になる。その危機をいち早く察知していたのが、星の守護者のドラゴンだった。

 地球に隕石が落下したその日、ドラゴンはその流星を目指して空を飛ぶ。隕石はドラゴンの活躍で破壊されてバラバラになったものの、その時に発生した衝撃で自身もまたバラバラになって世界中に飛び散った。


 バラバラになったドラゴンの肉片はやがて骨だけが残り、その骨のかけらには特殊な力が宿ると言われるようになる。その伝説が真実であると言われるようになったのは、各地でかけらを手に入れた者達が力を身につけて英雄的な活躍をしたからだ。

 それらの話も時の流れと共に風化して、今やお伽噺の一節で語られるのみ――。


 考古学者を両親に持つ氷川ヒビキは、そんな与太話を真面目に信じていた。彼は両親からドラゴンの骨の伝説の話を聞いて育つ。冒険物語も好きだったヒビキは、いつかその伝説の地を訪れたいと準備を進めていた。

 やがて、彼は様々な資源を巡って戦争を起こす国々の凄惨な歴史を知る。


「もしかして、今各地で骨が見つかったら戦争になってしまうんじゃないか?」


 そう考えたヒビキは、まだ見つかってない骨のかけらを探して隠すために世界中を巡る旅に出たのだった。


 彼の骨を探す旅は、ドラゴンの骨の伝説を集める事から始まる。図書館を巡ったり、伝説が残る地域の古老に話を聞いたりしたものの、肝心の骨は見つからなかった。国内を巡りきったヒビキは探索の範囲を広げ、海外にも足を伸ばし始める。

 ドラゴンの骨は国によっては建国神話に関わっていたりして、かなり神聖化していたりする。そう言う国でも、彼はドラゴンの骨を探している事を隠さなかった。


 ドラゴンの骨が神聖化してると言う事は、少なくともかつてその国でドラゴンの骨のかけらが見つかったと言う事だ。そう言う地域は、今でもどこかでかけらが見つかる可能性が高い。だからこそ、ヒビキの骨探索にも熱が入っていた。

 ある日、彼が熱心に骨関係の情報を集めていたところ、その国の警察に捕まってしまう。巷で存在が噂されていた、かけらを悪用しようとしている組織の一員と間違われてしまったのだ。


「では、お前は『クロウ』の一員ではないのだな?」

「俺はドラゴンの伝説を研究しているだけの民間の学者だ。骨の研究もその一部に過ぎない!」

「すぐには信じられんな。我々が秘匿している情報に近付きすぎた」


 組織とは無関係な事が分かるまで、ヒビキは拘束された。1ヶ月後に釈放はされたものの、その国での研究は禁止。彼は国外追放処分を受けた。

 その後も探求を続けた彼は、伝説を辿って無人島に渡る。そこで朽ちた祠を見つけた。


「本当にあった……」


 祠を調べると、そこに小さな骨を発見。ヒビキは、これこそ地元の守り神として祀られていたドラゴンの骨のかけらだと確信する。


「ついに、手に入れた……っ」


 かけらは見つかったものの、それで満足する彼ではない。目的は全ての骨を集め、誰にも見つからない所に隠すと言うもの。だからこそ、ヒビキのドラゴンの骨探しはここからが本当のスタートと言えた。

 最初の骨のかけらを見つけてから2年、彼はまだ新しい骨を見つけられないでいた。


「もしかして、もう新しい骨はないのか……?」


 伝説によると、人に力を貸したドラゴンの骨はその人の死と共に風化したらしい。既に全ての骨のかけらが見つかって使われていたなら、もう骨を巡っての争いは発生しない。

 ヒビキは自分がしている事が無意味かも知れないと考え始め、途方に暮れた。


 それでも彼はあきらめずに各地の伝説の収集を続ける。そんな旅の途中で訪れたのが治安の悪い水上都市だった。情報収集のために入ったバーを出たところで、ヒビキは何者かに拉致されてしまう。

 あまりに手口が鮮やかで、彼は意識を取り戻すまで拉致られた事に気付かなかった。


「うわっ? ここはどこだ?」

「そんな事はどうでもいい。骨を出せ。渡せば開放する」


 ヒビキは拘束され、椅子に座らされていた。目の前にはサングラスをかけた男が10人ほど。どう見てもかたの人間ではない。

 そこから、彼はこの連中が以前に話に出ていた悪党『クロウ』の一味だと推測する。


「ははあん、お前らがクロウって奴らなんだな?」

「よく知ってるじゃないか。俺達も余り手荒な事はしたくないんだよ。大人しく骨を渡してくれないか?」

「何が。マトモな交渉なら相手を拘束なんてしない。大方骨を手に入れたら証拠隠滅で俺を殺すんだろう? 誰がそんな相手に骨を渡すか!」

「残念だな。君を殺して骨を探すとするか」


 ヒビキに質問をしていた男が銃口を向ける。殺し慣れているのか、その動作には少しの無駄もなかった。


「素直に渡していれば、死に方は選べたのにな。残念だ」


 プロの殺し屋の目を見た彼は死を覚悟しつつ、それでも生へ執着する。この『死にたくない』と言う強烈な根源からくる願いは、ヒビキの服の隠しポケットに入っていた骨のかけらと共鳴した。その瞬間、突然骨から光が発生して彼の体をスッポリと包み込む。

 この謎の現象を前に、悪党共は一瞬怯んだ。


「「「「「うおっまぶしっ!」」」」」


 光が収まった時、ヒビキは拘束から解き放たれ、しかも特殊なスーツを着て立っていた。それは彼が幼い頃に夢中になっていたヒーローの姿に酷似している。そう、変身していたのだ。

 ヒビキは自分の両手を見つめながら、何が起こったのかを秒で把握する。


「これが伝説にある骨の力か、スゴいな。力が溢れてくる」

「貴様、何をした? 奴は危険だ! 殺せ!」


 この号令によって、その場にいた男達は一斉に襲いかかる。剣で斬りつける者、銃を撃つ者、殴りかかる者、蹴りを入れる者。室内は混沌とした状態になるものの、彼は全ての攻撃をあっさりとかわし、逆に悪党共を全員半殺しにする。

 こうしてピンチを脱した彼は悪党のアジトを後にした。変身はそこで解け、自分の意志で変身と解除が出来る術を体得する。


「これで俺も英雄になったぞーっ!」


 昇る朝日を浴びながら、ヒビキは両手を上げて生を実感。ひんやりとした朝の空気が、彼にはとても心地良く感じられていた。

 力を得て怖いものがなくなったヒビキは骨探しを再開。彼は別の国に渡り、博物館を巡った。古代の生き物の骨の展示を見ながら、そこに間違ってドラゴンの骨が混ざったりしてやいないかと考えたのだ。


「そんな都合良くは行かないか……」


 展示されていた小さな恐竜の骨格標本を眺めていると、同じように骨を眺めていた女性と目が合った。彼女の視線もまた骨を見ているようで見ていない。そして、一度骨とシンクロした者だけが持つ感覚で、この女性がドラゴンの骨を持っている事を確信する。

 ヒビキは、この感覚を確認するために彼女に声をかけた。


「あの、骨、お好きなんですね」

「えっと、そうですね。どちらかと言うと私は……」

「ドラゴンの骨?」

「ど、どうしてそれを?!」


 彼の言葉に女性は動揺する。そこでヒビキは彼女を2人で話せる場所に誘った。喫茶店で向かい合って座り、彼は警戒心を解くために自分から骨のかけらを見せる。


「俺はドラゴンの骨を探して旅をしているんだ。まだこれひとつしか見つけていないけど」

「あなたは何故骨を?」

「戦争を起こさせないためだよ。この骨を巡って世界中で奪い合いがあってはいけない」


 このスケールの大きな動機を聞いた彼女は、クスクスと楽しそうに笑う。そうして、自分から秘密を打ち明けたヒビキに興味を抱いた。


「私は片上ヒナ。ドラゴンの骨のかけらは私も持ってるわ。ねえ、一緒に探さない?」

「それは願ったり叶ったりだよ。あ、俺は氷川ヒビキ。よろしく」


 ヒナは偶然骨のかけらを手に入れ、好奇心で探しながら世界中を巡っている最中だった。意気投合した2人は共にドラゴンの骨を探し始める。現時点で彼女はかけらを2つ持っており、この時点で3つ集まった事になる。

 2人になったところで骨探しが急にスムーズになる訳でもなく、空振りばかりが続いた。それでもヒビキが目覚めた骨と共鳴する感覚や、ヒナの天性の勘によって、年に1~2個のペースでかけらは発見されていく。


 当然、この動きによって2人はクロウなどの骨探し組織に狙われるようになる。けれど、どんなにピンチに陥っても、骨の力で変身したヒビキの敵ではなかった。


「骨の力を身に着けたのにマトモでいられるって流石ね」

「多分、だから骨が認めてくれたんだと思う。過去に骨の力を身に着けた人物はみんな英雄だったし。俺が英雄かどうかは別にして」

「ヒビキは私の英雄よ。それは間違いない」


 ヒナもかけらを持ち歩いてはいたけれど、彼女は骨の力を得る事は出来なかった。そこからも、ヒナはヒビキに特別な感情を抱く事になったのだろう。2人は共に旅を続ける内に絆を深め、特別な関係になっていった。

 2人は世界中を巡り、念入りに丁寧に骨のかけらを探していく。そうして、10個のかけらが彼らのもとに集まった。もうこれ以上はないだろうと言う確信を得て、ヒビキは目的の最終段階に進む。


「はい、私の持っている2つもあなたに託すね」

「有難う。絶対に見つからない所に隠してくる」

「待ってるから。絶対に戻ってきてね」


 ドラゴンの骨の在処を知っていると後で狙われる危険があるので、ヒビキは1人で骨の封印に向かう。彼は旅の中で封印に適した場所を選定しており、そこの洞窟の奥深くに潜っていった。

 一番奥の空間まで来たヒビキは適当な位置に穴を掘り、持ってきていた箱を開けて骨のかけらを納め始める。


「ここに全てのかけらを入れて、後は埋めれば完了だ」


 箱の中に骨を9個入れ、最後にずっと持ち歩いてた最初に見つけたかけらをそこに並べる。10個のかけらが並んだところで、かけら同士がお互いに共鳴して発光し始めた。その光はかけらがひとつの時の発光とは比べ物にならなくらいの強大なエネルギーで、彼はこの膨大な光に飲み込まれてしまう。


「うわああああああ!」



 ――結局、彼は洞窟から戻らなかった。誰にも行き先を告げていなかったために生死不明と言う扱いになる。

 ヒナはヒビキの帰りをずっと待ちながら、けれど骨のかけらの封印には成功したのだと確信していたのだった。



(おしまい)

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ドラゴンの骨をさがして にゃべ♪ @nyabech2016

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