【短編】はなの色は

オオオカ エピ

第1話 はなの色は


『ねえねえ!』

 つんつん。

 ボクは鼻先を布団からはみ出た指先に押し付けた。


『ねえねえねえねえ!』

 つんつんつんつん。


「う〜〜〜〜ん」

 おねえちゃんは、何か言ってるけど、全然気づいてくれない。


 押し付けるだけじゃダメか。

 ならばと、ずーりずーりと鼻先をこすりつけてみたけど、反応してくれない。


『あぁ、もう!』

 がじがじがじがじ。


 ちょっとイライラして、冷たい指先を甘噛みしてみた。


 おねえちゃんの指先は、なんだか『ママ』のおっぱいを思い出す。


 ちゅぱちゅぱちゅぱ。


「うーん。痛いってばぁ〜」


 おねえちゃんは布団の中に指を引っ込めてしまった。


『また、やっちゃった』


 牙が生えてきたら『ママ』もおっぱいくれなくなっちゃったんだよな。

 ちょっと淋しい記憶が過ぎる。


 おねえちゃんは寝返りを打って向こうを向いてしまった。

 こうなると、ボクにできることは無い。


 仕方がないので、ボクは次の手をうつことにした。


 軽やかなステップでベッドに上がり、おねえちゃんの奥側を目指す。


「うがっ!」


 おねえちゃんの上を横切る時、変な声が聞こえた気がしたけど気にしない。


 ボクには大事な任務があるから仕方がない。


 奥側には、おねえちゃんが『みっくん』と呼ぶ下僕が寝ている。


 ボクは下僕の腹の上に跳び乗った。

 ここは面積が広くて平たいから安定が良い。


 ボクはお座りをして、規則正しく前脚を繰り出した。


 ふみふみふみみふみ…。


「スゴォ……スゴォ……」


 下僕の息遣いが変わった。


 でもまだだ。


『うーん、今日は手強いな……』


 ボクは下僕の枕元に場所を移した。


 お尻を向けて、長い尻尾を優雅に揺らす。

 弟分である短毛の青いヤツのように、パシパシなんて、はしたないことはしないんだ。 


 ふぁさぁ。ふあさぁ。


 顔に触れるか触れないか位の距離感が大事。


「う〜〜ん」


 下僕の瞼がピクピクし始めた。


『よし!』


 ボクは下僕の頬辺りに身体を押し付けた。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。


 あとは喉の音を直接聞かせてあげればいい。これで下僕は音を上げる。



 のそり。


 下僕が起きた。


『よっしゃあ!』


 下僕はおねえちゃんを起こさない様に跨いで、部屋を出ていく。


 この時ばかりはボクもおねえちゃんを踏まないように気をつけて飛び越え、下僕を追いかけた。


 階下への階段の途中で下僕を追い抜いて、ボクはご飯台の前でお座りをして待った。


 下僕はただでさえ細い目を更に細めたま、お皿を洗ってカリカリとトロトロをそれぞれのお皿に盛ってくれた。


 いつのまにか弟分が、ちゃっかりボクの隣でお座りしてる。 


 さもずっと待っていたんだよって顔。

 なにもしてないくせに、ムカつくなぁ。

 オマエがお腹がすくとイライラするから、ボクが頑張ってやってるっていうのに!


「はいよ」

 下僕から、寝ぼけたモゴモゴとした声がかけられた。


『ごはん!ごはん!!』


 ボクと弟分がお皿に顔を突っ込んでいる間に下僕は水を替え、おトイレも綺麗にして寝室に戻って行った。



 数時間後。

 おねえちゃんが起きてきた。


 シンクに空いた缶を見て

「もう、ごはんもらったんだ?」とつぶやいた。


 カーテンを開けると、おねえちゃんはボクの前にかがんだ。


「おはよう。ふふ。今日も美猫びじんさんだね」


 朝日に映えて、ボクの長くて白い毛並みが輝いている。


 おねえちゃんがボクの前に指を差し出した。

 ボクはつん、と薔薇色の鼻を押し付けた。

 

『おはよう!』


 ボクは重要な任務をこなした満足感をおねえちゃんにも分けてあげるように、誇らしげにスリスリをしてあげた。

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