人鳥暖炉と大学の怪談【ポスドク編】
私が近畿地方のあるラボにいた時の話です(ちなみに大学院生編とは別のラボです)。
ある日、研究棟の飲食スペースでラボの技術員さん達が「この建物の地下は霊的なサムシングが出る場所で、不気味な音が聞こえてくる」という話をしていたんですよ。
余談ですが、高校生の頃の私は、大学で理系のラボに入ればきっと周囲は「地獄先生ぬ~べ~」に登場する火の玉先生つっきー(ありとあらゆる心霊現象を全部プラズマで科学的(?)に説明しようとするキャラ)のような人達ばかりに違いないという夢とロマンでどきどきわくわくしていたんですよね。しかし実際に入学してみると、そんなことは全然ありませんでしたね、これが。
おっと、話が逸れましたね。
さて、私は怪談を書いてるくせに(どんな話を書いているのか知りたい方は、拙作『本当はいない友達から聞いた怖い話』を是非お読みください)、実生活では隙あらば「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君(ドヤァ)」と言いたい厨二病です(そんな隙など無いので、実際には一度も言ったことがありません)。
そのため、前述の話を聞かされた時にはこう答えたのです。
「その不気味な音というのは、どうせ何かの実験装置の作動音ですよ。こんなできたばっかりで誰も死んでない建物に幽霊なんて出るわけないですし」
大学院生編の時の研究棟は、新しいとは言っても私が入学した時には既にあった建物なので、実は私が知らないだけで人が死んでいたという可能性も無いとは言い切れません。しかし、このポスドク編の時の研究棟は、本当にできたばかりの新しい建物でした。ここで人が死んでいたら、事件自体が隠蔽されていない限りは私が知らないはずはありません。
ところが、ここで技術員さんからは想定外の答えが返ってきました。
曰く、この研究棟自体では誰も死んでいないが、研究棟を建てる際に元々あった祠をどこかへ移設してしまっており、その影響で霊的なサムシングが出るというのです。「お前、あの祠壊したんか!?」ならぬ「お前、あの祠移したんか!?」案件というわけですね。
私は件の研究棟が建つ以前からその大学にいたため、「はて、そんな祠なんてあっただろうか? そもそもいくら古都とはいえ、大学の敷地内に祠なんて普通あるか??」と記憶をたどってみたのですが、研究棟が建つ前にそこに何があったかを全く思い出すことができず、あったとも無かったとも言えませんでした。
しかし私は隙あらば(以下略)な厨二病なので、それでもなお「パソコンを持ち込んでデスクワークをやっても良いなら、時給◯円(何円って言ったかは忘れた)で丸一日そこにいて何か出るか確かめても良いですよ」などと言い出しました。
怪談だったら、こんな舐めたこと言ってる時点で死亡フラグ成立です。もう助かりません。助かるとしたら、ラボに寺生まれのTさんがいる場合だけでしょう。
しかし現実には、任期付きで将来が不安なのでできるだけ貯金をしておきたい哀れなポスドクに時給◯円を出してくれる人はいなかったので、私がその地下に行くことはありませんでした。そのため、件の不気味な音の正体はなんなのか、あるいは本当にそんな音なんてしたのかについては、今でも分からないままです。
まあ、現実なんてそんなもんですよ。
ちなみに余談ですが、この時のラボには本当に寺生まれの大学院生がいました。イニシャルはTじゃありませんでしたし、「破ぁ!」なんて絶対に言いそうにないタイプでしたけどね。
でも実は、それは世を忍ぶ仮の姿で、私があの地下に行ってそこでピンチに陥っていたら、「やれやれ、俺の真の力はあんまり知られたくなかったんだけどな」とぼやきながら「破ぁ!」と助け出してくれたのかもしれません。
近畿地方のあるラボについて 人鳥暖炉 @Penguin_danro
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