第11話 静寂へ
やがて、息を切らしながらも住人たちは手を止めた。そこにはもう、かつて彼らを支配していた管理者の姿はなかった。あるのはただ、今まで虐げられてきた者たちの勝利の実感だけだった。
「やった……!」
誰かが呟いた。その瞬間、抑えきれない感情が爆発した。
「うおおおおおおおおお!!!」
雄叫びが響き渡る。住人たちは拳を突き上げ、声を上げた。誰もが歓喜し、支配されていた恐怖から解放された瞬間だった。
復讐は終わった。
だが、その興奮に飲み込まれながらも、恭一はふと違和感を覚えた。
——これで、本当に終わりなのか?
燃え尽きたような感覚と共に、恭一の心には新たな疑問が浮かび上がっていた。
本当に求めていたのは、これだったのか?
管理者たちを痛めつけても、心の奥底にあった空虚感は埋まらなかった。復讐が終われば、すべてが解決すると思っていた。だが、今感じているのは、ただの虚しさだった。
「……こんなはずじゃ……」
恭一はぼそりと呟いた。しかし、周囲の歓声にかき消される。
拳を握ったまま、恭一は立ち尽くした。彼はもう騒がしくても良い、ただ元の生活に戻りたかった。
心の底からそう思えた。
————————————————————
モニターに映し出された映像を眺めながら、ゆっくりとコーヒーを啜る。
「今回はこっちの勝ちか」
淡々とした声が静かな室内に響く。周囲では他のスタッフたちがそれぞれの持ち場で手を動かしながら、画面に映る者たちを見届けていた。
「どうやら、今回は管理側が先に倒されたようですね」
隣のオペレーターが呟く。
私は肩をすくめ、映像に映る光景を見つめた。
この施設は、極端に静寂を求める者と、人を管理することに異常な執着を持つ者を集め、という心理を持つ両者を同じ環境に放り込むことで生じる人間の心理を観察するためのものだ。彼らは2つの派閥に分かれ、互いに支配し合い、排除し合いながら生存を競う。
だが、勝者など存在しない。それが、このプロジェクトの本質だった。
「それで今回の視聴者数は?」
「前回より12%増加しています。やはり管理側が早めに脱落すると、視聴者の反応が良いですね」
「それに今回は端末上のやり取りをすべて配信した点が功を奏しましたね。リアルタイムでの駆け引きが視聴者の興奮を煽ったようです」
「確かにな。しかし、どっちもクズ人間ばかりだったな」
「まぁ、それは視聴者も同類でしょう。こういうものを楽しむ時点でね」
「とはいえ、私たちは視聴者から金をもらっているんだから、あまり悪く言うのはやめておこう」
私は笑いながらモニターを見つめる。
「さて、同時進行しているプロジェクトの確認をしてくれ」
「はい、現在進行中の実験は3件。次のプロジェクトの候補者リストもすでに準備済みです」
「他のプロジェクトで膠着しているものはあるか?」
「はい、このプロジェクトがやや停滞気味です」
「ふむ……少し手を加えるか。視聴者が飽きないようにしないとな」
オペレーターが淡々と報告する。私は画面に映る光景を見つめながら、小さく笑った。
「どんなドラマが見られるか楽しみだな。」
「さて、ここの後始末を頼む」
「手配済みです」
その時、画面に映る黒ずくめの実行部隊が施設内に突入し、住人たちを次々と排除していくのが見えた。彼らの叫び声も、絶望に満ちた表情も、今となっては見慣れたものだった。
モニター越しに、無機質な白い部屋に広がる沈黙が映し出されるが見ている者は誰も居なかった
。
ようやく、この場所に『静寂』が訪れた。そして、また新たな『プロジェクト』が始まるのだった。
静寂の隠れ家 すんじ @syunjapan
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