薔薇を食べて生きる

清水らくは

薔薇を食べる妖怪

 薔薇を食べる妖怪がいた。

 薔薇を食べる妖怪は薔薇を食べている。美しい薔薇ほどいい。人々が愛する薔薇ほどいい。

 世界に人々が溢れると、薔薇も満ちていった。人々が寝静まったころ、薔薇を食べる妖怪は薔薇園に忍び込む。大きく口を開けて薔薇を口に入れると、薔薇の色だけを飲み込む。そして灰色になった薔薇を吐き出す。

 人々が気が付いた時には、色を失った薔薇が大量に広がっている。そして色を失った薔薇は、ほとんどの場合刈り取られてしまう。

 薔薇には、薔薇色が必要なのだった。


 薔薇を食べる妖怪は忙しかった。薔薇園は至る所にあった。一度灰色になった薔薇園で、再び薔薇を植えることも多かった。人々は薔薇に取りつかれていたのかもしれない。

 薔薇を食べる妖怪はたまに見つかって石を投げられたり棒で叩かれたりしたが、まったくこたえなかった。薔薇を食べる妖怪は痛さを知らなかったのだ。


 薔薇園が少なくなってきた。人々も少なくなってきた。世界は冷えてきて、薔薇の元気もない。薔薇を食べる妖怪は空腹を感じたが、どうしようもなかった。

 ついに薔薇園がなくなった。人の姿も見えない。薔薇色を忘れるぐらいに、長い間薔薇は咲かなかった。

「育ててみよう」

 薔薇を食べる妖怪は、地面に薔薇を植えた。なかなかうまく育たなかった。彼はずっと、食べる専門だったのだ。それでも何度も何度も試行錯誤して、ついに一厘の薔薇が咲いた。

 薔薇を食べる妖怪はその花を口に含んだ。甘いあまい色だった。


 薔薇をたくさん咲かせられるようになった。薔薇を食べる妖怪は、毎日薔薇を食べることができた。

 だがある日、薔薇園の花が灰色に染まっていた。まだまだ薔薇色は残っていたはずなのに。

 ああ、私以外にもいたんだ、と思った。薔薇の色を、他の妖怪に食べられてしまったのだ。

 薔薇を食べる妖怪は嘆き悲しんだが、前を向いて、薔薇の種をまいた。薔薇を食べる妖怪は、薔薇を育てる妖怪になったのだ。

 

 世界に再び、薔薇色が溢れていく。

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薔薇を食べて生きる 清水らくは @shimizurakuha

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