周星馳(チャウシンチー)のミサンガ…じつはなくしました。
植木 苗
周星馳(チャウシンチー)のミサンガ、なくしてごめんなさい
彼女との出会いは、中学1年生の頃。
身長は160センチ前後のほっそりとしたスタイル。優しい雰囲気に包まれ、優等生で大人しそうな見た目の女の子。
第一印象はそんな子でしたが、打ち解けるとよく笑うし、毒も吐くし、お笑いや芸能人好きなどのミーハーな部分も持ち合わせていました。
当時の私は芸人やお笑いにどハマりしていて、彼女ともその話題で花を咲かせました。
キングコングやロザンなどのアイドル若手芸人が人気だったあの頃。
私はFUJIWARAのフジモンやブラックマヨネーズの小杉、さまぁ〜ずの大竹、くりぃむしちゅ〜の上田など中学生の趣味としては何とも渋い芸人を推していました。それでも彼女は「え?」と驚くことなく、一緒にDVDを見て爆笑したり、テレビ情報を共有してくれました。
彼女は手芸部に所属していて、私は帰宅部。それなのに、私は彼女とお喋りするためよく放課後、手芸部の保健室に入り浸っていたように思います。
手芸部の彼女。つまり、手先が器用で「これ作って」というとパパパッと綺麗な手芸品を作ってしまうのです。ガサツな私からしたら、繊細な作品ばかり。
中学生という年齢もあって、なかなか推しグッズを購入できず、あまり見れたもんじゃないセンスで手作り推しグッズを作っている私を見て、彼女は「作ってあげようか」とよく声をかけてくれました。
でも、彼女もまだ中学生。材料も多くは揃えられません。お互いに満足なお小遣いをもらっておらず、彼女に至っては昼休みのお弁当用にもらった500円を毎日100円のスティックパンに抑えて貯金していたくらいです。
そこで考えたのがミサンガです。ミサンガなら100円均一にある刺繍糸を買うだけで作れますし、カラフルで推しグッズにも最適。しかも、彼女はミサンガ作りを得意としていました。
私にとってのミサンガ作りは3色がローテーションでまわってくるシマシマ模様の編み方。それしかできません。でも、彼女はどこをどうするのか未だにわからない編み方で好きな文字を入れ込んでいました。
推しの名前をミサンガに入れる。これができたのです。
当時、私の中では人生に一度あるかないかの周星馳(チャウシンチー)ブームが来ていました。少林サッカーの金曜ロードショーを見たのがきっかけ。TSUTAYAへ行き、お小遣いのほとんどは
あぁ、もう私。絶対に
多分若い人は
そんな私の
仕上がったのは、かなり完成度の高い中国のお土産みたいなミサンガでした。私が100円均一で買って渡した赤と黄色の刺繍糸が使われ、
ミサンガなので、もちろん手首につけるのですが、「周星馳」の三文字が入ったミサンガはそこそこ太く存在感もすごかったため、私は友達と遊ぶ休日だけ緩めに巻いて使っていました。
そこまで仲良くない子に
そして、彼女と電車に乗って遊びに行ったある日。帰りの車内で
私は内心パニックになると同時に、彼女にバレてはいけない、そう思いました。絶対にバレたくないと。だって、あんなに素晴らしいミサンガは、絶対に時間や労力がかかっているから。なくすなんて失礼すぎる。
家に帰って、カバンやら上着の裾やらを全て探しました。一人で駅に戻って改札の外も見て回りました。おそらく電車で落としたんだ。それでも、私は駅員さんに聞くことができませんでした。
おばちゃんになった今なら聞くことができるでしょう。でも、当時は中学生。15歳くらいです。しかも、
私はそのまま探すのを諦めました。
そして、私は考えました。
自分で同じものを作って、
数年前の『ちいかわ』のお話で、ハチワレがちいかわにもらったリボンをなくしたことを泣きながら告げるシーンがありました。友達に正直に謝る。たくさんのちいかわファンが感動していました。
私もそれを見て、泣きました。自分はハチワレと違って彼女に正直に言えず、しかもずるい方法で誤魔化して何とかしようとしていたんですから。
もちろん自作の
それから、彼女とは21歳まで付き合いがありました。私は大学生、彼女は高卒で公務員に就職。
よく一人暮らしの家に遊びに行って、夜中までお酒を飲みました。彼女はかなりいける口。一方、彼女に張り合った私はいつもベロベロまで酔っ払っていました。
あぁ、懐かしい……彼女の部屋で一緒にそーめんを食べたこともあったな……
でも、彼女との連絡はあっけなく途絶えました。
それは、彼女から父親が大変なことになり(個人情報なので記しませんが結構衝撃的なこと)、両親が離婚。専業主婦の母親を、自分が扶養するという話を聞いた後でした。
私は当時まだ親にどっぷり甘えていましたし、父の仕事がうまくいっていたため、大学費用についても全く考える必要はありませんでした。お気楽大学生です。
今なら彼女がどれほど重い精神的負担を抱えていたか想像できます。でも、当時はわからなかった……いや。わかったような口をきいていた、という感じでしょうか。
彼女の話を私がどう相槌し、どう答えたか覚えていません。おそらく「それは大変だね」と言う程度のものだったでしょう。
もっと親身に、もっと支えるような温かい声をかけていれば良かった。
それから彼女は仲良しのLINEグループから去りました。LINEアカウント自体を消して。他の友達も同じ状態で、みんなで必死に探しました。
彼女が住んでいた部屋は、もう引っ越した後。電話番号もメールアドレスも、変えられていたのです。全ての連絡を経った……私たちから見ると、失踪状態です。
今も周囲で彼女の情報を得た人はいません。もしかしているかもしれませんが、私には入っていません。無理矢理会うのはいけないと思うので、それもしません。
それでも、元気にしているか。それだけが気になっています。そして、できれば
彼女のことだから、甲高く笑いながら「そんなん良いよ〜」と言ってくれるんじゃないか。自分の勝手な妄想だけど……
そうやって年に何回か彼女を思い出しています。
周星馳(チャウシンチー)のミサンガ…じつはなくしました。 植木 苗 @uekinae
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