【オカルト?】高校生連続死亡事件の真相【陰謀?】

水城みつは

高校生連続死亡事件の真相

「ところで、僕はいつまでここに居れば良いんですかね、刑事さん?」


 事故後の再検査のための入院と言えば聞こえは良いが実際には体のいい監禁だ。


「いや、済まないね。実際のところは君自体の安全確保も兼ねてるんだよ。流石に君も知ってるだろう?」


 世間を賑わす「高校生連続殺人事件」、ネットだけでなく新聞やテレビでも取り上げられるようになると知らないと言える雰囲気ではない。


「ええ、ウチのクラスの半分、二十人が乗ったバスが転落、生き残った半分程も退院後に不審死や失踪が続いている。でしょう? SNSでも犯人探しや陰謀論を良く見かけます。それで、まだ死んでない僕の保護と監視なのもわかりますよ。まあ、こうも連続して事件が起これば生き残ってる人を犯人かと疑うのも当然ですよ」


 転落事故により十二名が死亡、奇跡的に無傷で生き残った僕や他の生徒も一旦検査のため、それぞれ別の病院へと入院した。

 これは、事故があったのは他県の山奥であり、ヘリコプターにより開いている病院へとそれぞれ搬送されたからである。

 その日は病院に泊まり、二日かけて精密検査、更に翌日、軽い警察の事情徴収があって自宅へと戻った。


 そして次の日、一人の生徒の死亡を知る。 

 公式には事故が原因の死亡とされた。

 しかし、実際の死因は失血死、それも大きな獣に手足を食いちぎられた事が原因と懇意にしている刑事さんがこっそり教えてくれた。

 また、逃げ出す大きな獣のような姿も目撃されている。


 これが不思議な連続死亡事件の始まりだった。


 事故から四日後、帰宅して二日目にも更に一人の生徒が死亡していた。

 こちらは火事で焼け落ちた自宅から身元不明の死体が出てきたそうだ。

 直前の病院での検査結果から、事故にあった生徒の一人であったことが確定したとの報道があった。


 五日後には投身自殺による生徒の死亡が伝えられた。

 また、最初の失血死に関連しそうな大きな獣を山狩りに参加した猟師が発見、発砲するも血痕を残して文字通り消え失せたと匿名掲示板に書き込まれていた。


 そして六日後、僕は検査と称してこの病院に連れてこられ、入院することとなった。


 この日、事態は急変する。

 切り刻まれた生徒らしき死体、そして、死体の前で呆けている生徒本人が発見された。


 次の日、僕はこの不可解な連続死亡事件の真相を知った。

 気分転換に出た屋上、そこで、切断された左腕と……失血死した僕の姿を発見したのだ。



 ◆ ◇ ◆



 僕たち二十人はバス転落事故時、異世界に勇者召喚された。いわゆるクラス転生だ。

 その時出会った神様によると事故により死んだ魂を異世界で再構築した体に入れたとの事だった。

 そして、元の世界では死んでいるので、仮に戻ったとしても死んでいると言われた。


 勇者召喚の目的は魔物モンスターを操る魔王の討伐。

 世界を超えた魂は【恩寵ギフト】と呼ばれる特別なスキルを得られるという。

 そんな僕たちは神様からも異世界での魔王討伐を頼まれていた。

 魔王討伐達成の暁には魔王討伐への貢献度に応じて願いを叶えるという。


 魔王討伐までの道のりは長かった。

 最終的に魔王の元まで辿り着いたのは六人だけ。

 【勇者】、【守護者】、【忍者】、【魔術師】、【聖女】、そして【運び屋】の僕だった。


 魔王との戦闘は長きに渡り、皆の魔力も気力も尽きかけたところで勇者の一撃が勝負を決めた。

 戦闘へはほとんど参加しない僕でさえ左腕を切り飛ばされたりとギリギリの戦いだった。


『異界の勇者達よ、良くぞ魔王を倒してくれた。これで世界は救われるだろう。それでは各々の願いを叶えよう』


「この戦いで死んでいったクラスの仲間を生き返らせて欲しい」

 イケメン勇者はやはり勇者だった。

 この世界に蘇生魔法は有りはする。しかし、聖女の使う『蘇生』であっても万能ではない。死後数分以内でなければならないし、病気や寿命には効かない。


『通常であれば無理だが、それぞれの【恩寵ギフト】の力を還元することで何とかしよう』

 流石神。【恩寵ギフト】はなくなるが死んでいるよりは良いだろう。


「元の世界に返して欲しい」

 聖女の言葉に皆が動きを止めた。


『元の世界のそなたらは既に死んでいる。それでも戻りたいと言うのか?』


「戻りたいです」


『戻す事はできるが、その結果どうなるかまでは保証できない。それでも戻りたい者に関しては戻すものとしよう。ただし、元の世界に影響が出る【恩寵ギフト】やスキルは使用できなくなったり調整されることになる』


「え、俺Tueeee! とか駄目ってこと?」

 戻れるかもと聞いて目を輝かせていた魔術師が訊いた。


『魔力のない世界に魔力を撒き散らすわけにはいかぬ。特に攻撃魔法は全て使用禁止だ』


「なら俺は戻らねぇ。こっちに居れば魔王を倒した英雄様だし、これからの生活はウハウハなのは間違いないからな」


 妥当な選択だろう。そもそも、クラスの仲間でもこっちの世界で結婚した奴らもいる。

 勇者が姫様と恋仲であるのも周知の事実だ。


―― 異界の勇者よ、魔王討伐感謝する。元の世界では死んでいる事実を受け入れた上で元の世界に戻る者があれば戻そう。


 目の前からでなく心に神の声が響いた。おそらくは此処にいない仲間にも聞こえる声だろう。


「ねぇねぇ、聖女様、戻った途端に死体になるって事だったりしない?」

 そうギャルな忍者に言われた聖女様の顔が引きつる。


『体は今の体のままを送ることになる。ただし、こちらの世界の体であるから向こうの世界で死んだ時はどうなるかわからない。また、世界の調整力によってそなたらがどう認識されるかもわからない』


 つまりは送ることは可能だが何の保証もないと。


「それでも私は戻りたい……」


―― 戻ると決めたものから戻そう。戻らないものもそう伝えて欲しい。期限は明日から十日間とする。


 王都へと戻ると死んだはずの仲間も出迎えてくれた。しかも、死んだことを皆が認識せずに受け入れていた。これが世界の調整力なのかも知れない。


「運び屋さんは元の世界に戻るの?」

 連日催されている祝勝会で出会った聖女様に訊かれた。


「ああ、どっちの世界にもそんなに未練はないけど、元の世界で死んでるかもって言われたら気になるだろ。それに、戻ったであろう奴らの様子も気になる。明日にでも戻るつもりだ」


「そう、貴方はそんな人だったわね。私も早く戻りたいけど祝勝会を抜けるわけにもいかなくて……多分、四日後の最終日になるわ。じゃあ、また元の世界で会いましょう」


 そうして魔王討伐から七日後、僕は元の世界に帰還した。



 ◆ ◇ ◆



 昼下がりの屋上、目の前には切断された左腕と、死にたてほやほやの僕の死体。

 慌てて周囲を見回す。


「よし、目撃者はいないな。いや、これ僕が殺したわけじゃないよな、てか、死んでるのどう見ても僕だし……」


 こういう時はまず落ち着いて、証拠隠滅を図ろう。


「『収納』! お、こっちでも使えたよ」

 目の前から切断された左腕と僕の死体が消える。

 『アイテムボックス』、生物以外を別な空間に仕舞うことのできる異世界で手に入れた僕の【恩寵ギフト】だ。

 屋上の水道を使って流れ出た血も洗っておいた。


「ふむ、知らないはずの事故後の記憶があるな。つまり、事故後に生存していたのは異世界から帰ることを選んだメンバーってことか」


 僕が帰ってきたのが事故日から七日後、そう、魔王討伐からも七日後だった。

 恐らくは事故後に死亡したメンバーも同じように自分の死体を目にしたに違いない。

 僕の死体の左腕が切断されていたところを見ると異世界で受けたダメージが蓄積した形でこちらの体に反映されたと考えられる。


 分かってくると色々と辻褄が合う。


 獣に食い殺されたような最初の犠牲者。

 そう言えば『獣人化』のスキルを持っていたやつがいた。スキル強化と称して獣系モンスターと良くバトっていたのを思い出す。

 そして、撃たれて消え失せたとなると僕達帰還者は死ぬとこの世界から消えてしまうのだろう。

 それならば、不審火や投身自殺も帰ってきた本人も一緒に死んだ可能性が高い。異世界は時に過酷だった。



 ◆ ◇ ◆



「退院おめでとう」


 いつもの刑事さんから帰宅許可が出た。


「別にどこも悪くなかったんですけどね。僕が退院ってことは事件は解決?」


「いや、迷宮入りだ。現行法では対処できないし、証明もできない。君も話せないだけで分かっているんだろう?」


 その言葉に僕は薄っすらと微笑む。

 そう、異世界に関することは何故か話せないのだ。


「これは独り言だが、事故からの生還者は八名、内三名は死亡、三名は訳が分からないが死体と一緒に生存……」


 刑事さんが頸をかしげてこちらを見る。


「君だけが死体がないんだよ。どういう事か分かるかね?」


「……さあ? ところで、後一人帰還者がいると思うのですが、どうなったんですか?」


「私にはもっと訳が分からないがね、君を迎えに来ているから自分で確かめたら良いよ。それじゃあ、お元気で」


 そう言って去っていく刑事さんと入れ替わりで彼女は現れた。


「運び屋さんも無事に帰ってきていたみたいね」

「会えて嬉しいわ」


 聖女様は二人に増えていた。


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