エピローグ
「……という感じで結婚したよね」
ランチサイズの小ぶりなグラスに注がれたシャンパンを飲み干し、食後のコーヒーもほぼ終わりに近い。
友人はデザートを食べ終えたお皿の上で、ラズベリー色をしたソースを名残惜しそうにフォークの先で突きながら、ふわぁと息をついた。
「それって、どのくらいの期間でした?」
「紹介から数えたら、入籍までは七ヶ月」
「ヒエ……」
あの結婚を決めた日のあと、それぞれの実家への紹介を済ませつつ住む場所を検討し、住居を購入して、必要な家具家電を購入。結婚指輪を買いに行き、転居しつつの入籍を済ませた。
結婚式的なものは特にせず写真館で記念写真を撮影するに留めた。その時の写真は、今でも家のリビングに飾られている。
自分でもまさか、そんな短期間で結婚を決意するとは思わなかった。でも、こんなに気の合う人と巡り逢えるとも思っていなかった。
「結婚して何年でしたっけ?」
「まぁ、十年以上経ちますよねぇ……」
「今でも仲が良いんですもんね」
「……ですね」
データによるマッチングを頭から全て信用する訳ではないけれど、趣味や嗜好は合うし、物事の考え方にも違和感がない。驚くことはあっても、それは嬉しい驚きや、新しい発見に繋がる。
胸を焦がすような恋ではちっともないけれど、例えて言うなら温泉みたいな、ポカポカと心が暖かくなる暮らしをしていると思う。
「ご馳走様ですねぇ」
「えぇ、お粗末様ですよぉ」
うふふ、と二人で笑い合う。
友人は席を立ちながら大きく伸びをした。
結婚だけが幸せではない。
でも、少しでも誰かと共に歩む人生を過ごしたいと思うのなら、婚活をしてみても悪いことはないだろう。
もし結果が伴わなかったとしても、それは「誰のことも選ばなかった」、つまりは「ひとりで過ごす時間を大切に思っている」という結論にはなるのだし。まぁ、モヤモヤしてるよりも行動してみた方が、納得して気持ち良く過ごせるんじゃないだろうか。私はそんなふうに思うから。
「よぉーし、私も今日撮って貰った写真で、未来の夫を見つけちゃいますよー!」
「見つかる見つかる! ……でも、撮り直しは何度でも付き合うからね?」
「そう何度も撮りませんって!」
どこかで聞いたような会話をしながら店を後にする。街には陽の光があふれ、私たちの明るい未来を照らしているようだった。
平成婚活メモリアル 〜あなたは私の夫になりますか?〜 野村絽麻子 @an_and_coffee
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