浮気した彼氏をアッパーカットで追い払った佐藤ヒナコ。なんとなく川を見ていたら喫茶店のバイト男子、奥田トモから唐突に声をかけられた。どうやら自殺しようとしているのだと勘違いされたらしい。誤解を解いた後、彼女は対元彼用の用心棒として彼を伴い部屋まで戻って――見つけてしまうのだ。バスルームで死んでいた元彼の死体を!
一度見た人の顔を忘れない特技を持つトモくんは、以前何度か来店したヒナコさんを憶えていて声をかけます。そしてその能力を生かし、元彼殺害事件においても名探偵っぷりを見せつけてくれるのですが。
ヒナコさんのとある特技が、物語にかけられていた謎という名の鍵を解き、ここまで積まれてきた展開を思いきり転じるのです!
この一転の見事さ、本当に驚かされるのですよ。しかもそれにより、すべてが冒頭から周到に仕組まれていたことに気づかされる――これぞミステリーのカタルシスですよね。
予想外のエンディングにもまた驚かされずにいられない、妙なる本格ミステリーです。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)
マジックアワーの橋の上、恋人たちは魔法にかかったように愛を囁くはずなのに 佐藤ヒナコの怒涛の悲劇はそこから始まった。恋人の裏切りにキレて殴った拍子にスマホが川底へ。今どきスマホがないなんて、山中で遭難したくらい心細い。傷心のヒナコが自殺するのではないかと心配して家まで送ってくれた、モスグリーンのエプロンを付けた誠実そうな青年と見つけたのは、さっき別れた元カレの変わり果てた姿。この部屋で何者かに殺された? 密室殺人 怪しげな隣人。ヒナコ、吊り橋効果で胸キュンしてる場合ではないのでは…⁈ マジックアワーの魔法が解けた時、ヒナコは現実と向き合えるのか?