第4話 おじさんはいつも満身創痍

急いで残りの階段を駆け上がり、山頂へとたどり着く。そこには、


「ドラゴンちゃん!それ以上歩いたらこけちゃいまちゅよ!!」


「きゅう」


「ずっとふわふわでいてね。」


「きゅきゅ?」


「なぁもう討伐したってことにして帰ろうぜ。」


「いいや、まだまだ愛で足りないね。」


「きゅうううう」


「グルル……。」


雛を中心に完全にデレデレの討伐隊と困り果てたファイアードラゴンの親だった。


「あなた達何をしているの。」


 少し語気を強めて少女が彼らに問いかける。

そうしてようやく俺たちの存在に気づいた隊員たちは焦りながらも雛を守る陣形をとった。


「こっ、これはゲルダ姫様ご機嫌麗しゅう。あの……ええと。」


「姫様!聞いてください、このもふもふは何の害もありません!よって討伐すべきではないと私は思います。」


「そうです!大天才の姫様ならきっとわかってくれますよね?こんなにかわいい子がSSS級の魔獣であるはずがない。」


「はーよちよちかわいいでちゅねー♡」


 彼らは雛をかばおうと必死に少女に説明する。いや一人ずっと雛にベタベタしてるんだけど。


「私の任務はお前達の救助であって獣の討伐ではない、よって傷つけはせぬ。だが其奴のことは一度我の目で見るべきだろう、退け。」


 少女の話し方はまるで彼らが呼ぶように姫様のようだ。


「急に威圧感出るじゃん。」


「うるさいわね!」


 俺の言葉に少女は直ぐに口をへの字に曲げて怒鳴った。

姫様モードは数秒しか続かないかったようだ。

 そうして少女……ゲルダは雛の前にひざまずいた。しばらくあの子を見たあと、親ドラゴンと何やら交信している。


「ああ、そういうこと。」


 何か合点が行ったのかスッキリした表情でゲルダは俺の前へとズカズカやってくる。


「おじさんいいニュースと悪いニュースどっちが聞きたい?」


「じゃあ悪いニュースで。」


「おじさんは二度と魔法が使えない。転移時には膨大な魔力を持っていたけどそれらは全て一瞬で使い果たされてしまったの。」


 つまり秘められた力はなかったというわけか。少しだけショックだ。


「いいニュースは?」


「この子はあなたに引き取ってもらうことでドラゴンの親と合意したわ。この子はね、本来死産になるはずだったの。けれど生まれる瞬間に膨大な魔力が流れてきて、そのおかげで生命を維持する程度のエネルギーが復活したみたい。」


「それってもしかして、」


「ええ、おじさんもこの子も死の間際だったからか奇跡的に波長が合って吸い取っちゃったみたい。親も初めておじさんに会った時に気づいたみたいだけどどんな人間かわからなかったから追い出したらしいわ。」


「じゃあ一ヶ月前に計測された力って。」


「おじさんから魔力が放出されたときのものでしょうね。」


 俺の魔力がこの雛の命を救ったのだと思うと魔力がなくてもいいかなって気がしてくる。生活は不便だけどできないってほどじゃないし。


 討伐隊と親ドラゴンが見守る中、雛がよたよたと俺の方へと向かってくる。


「まるであたしとおじさんの初対面の時みたいね、おじさんに可愛さはないけど。」


「えーおじさん可愛いでしょ。……あはは冗談だよ。でもそうだね、なんか親近感湧いちゃうんだよね。」



 雛がぽやりと眠そうに俺の腕の中でリラックスしている。ファイアードラゴンというだけあってその体はカイロみたいに温かい。


「その子はおじさんの魔力で生きているようなものだから魔力の主がそばにいてあげるのが一番安定するはずよ。少なくとも生命の危険はないわ。そして、生命維持に魔力を使っている以上あまりその力を外に出すことはできないみたいだから強くはなれないでしょうね。」


その瞬間、討伐隊の方で歓声が上がる。


「では姫様、もうこの子を討伐する必要はありませんね!帰りましょう。」


「ええ、お疲れ様。報酬はちゃんとあるから安心して。」


 彼らが去ったあと、俺はファイアードラゴンに話しかける。


「ファイアードラゴン、安心して。君の子は俺が立派に育てるよ。そんな顔するなって時々一緒に会いに行くからさ。」


「グル……。」


彼女は静かに頷いた。

言葉は分からなくても気持ちは理解してもらえたのだろう。


こうして俺たちの登山は無事終わりを迎えた。








「そういえば嬢ちゃん……ゲルダさん?はなんで姫様って呼ばれてたんだ?」


村に帰った俺は1日中動いて腹ぺこのゲルダと雛にせっつかれて人気料理のオムライスを振る舞っている。


「えっと、それは。」


 急に口ごもり、オムライスを食べることで誤魔化そうとするゲルダ。その後ろから討伐隊のメンバー達がひょっこりと顔を出した。


「兄ちゃん知らんで姫様と関わっていたのか?」


「そのお方はこの雪の国の姫君ですよ。最年少でS級魔法使いへ上り詰めた天才で王都にはファンクラブもあるんです!」


「けれど彼女は下々に興味がないのか依頼以外で滅多に口を開くことはないって言われてるんだぜ。そういうところが超クールって逆に人気なんだけどな!」


 この国の姫ってことはとんでもないお偉いさんじゃないか。ん?でも


「嬢ちゃんってむしろ口うるさい方だと思うけど。」


 その瞬間がちゃん!と大きな音がしてそこにはスプーンを落としたままゲルダが真っ赤な顔で固まっていた。


「あ、あなたみたいな呑気ふらふらおじさんと1日中いれば誰だって調子おかしくなるわよ!」


 すぐに杖を持ち出し俺をポコポコ殴るゲルダをみんながニコニコと見守るような温かい表情で見守っている。

が、忘れてはならない。杖によって1打撃1ダメージが確定で入っていること、そして俺にとってそのダメージは致命傷になり得るということを。


「ちょっと、いだっ、誰か!たすけてくれー!」



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ざこおじさんは今日も満身創痍〜天才魔法使いちゃんと雪山登頂〜 路傍の鳩 @sankakuround

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