少年漫画が好きな社畜OL、異世界で令嬢に転生する~男の姿に変身できるようになったので、少年漫画の主人公のように振舞う~【短編】
琴珠
短編
《令嬢視点》
私は少年漫画を愛する社畜OLだ。
いや、元OLだった。
一週間ほど前のことである、いつも通り仕事を終え就寝したのだが、目が覚めるとなぜかファンタジー世界の令嬢であった。
私は詳しくないが、異世界転生か異世界転移という奴だろう。
そんな私は、この世界では18歳。
2年後には王子と結婚することになっている。
だが、その王子には裏の顔があった。
「これで俺も立派な王子だ! 本当はあんな奴愛してはいないが、俺の王子としての品格を高める為の小道具には丁度いいだろう!」
このような発言を、彼の父親である王に話しているのを聞いてしまった。
正直私も一週間前にこの世界に来たばかりで、あまり王子のことはよく知らない。
結婚する予定だとはいえ、恋心もまだ芽生えていない。
だが、裏切られた感はあった。
王子は性格も良く、魔法の才能などもある。
そう思っていたが、実際は私を道具としてしか見ていない男だったのだ。
王子の裏の顔を知ったのは昨日王子に会いに行った時である。
◇
私は自分の部屋で、昨日のことを思い出していた。
そこで、この世界に来てまだ一度も使ったことのない魔法のことをふと思い出す。
「もしもあの王子が変な気を起こそうとしたら、これを使って身を守ろう」
この世界には魔法がある。
私も魔法を使うことができるらしいが、まだ使ったことはない。
使える魔法は1つだけだ。
魔法名は【ヒーローモード】という名の魔法だ。
効果は、自身の性別を男性にするということしか分かっておらず、他には情報がない。
「ヒーローかぁ……」
私は少年漫画が好きだ。
小学生の頃は男子に混ざって、必殺技を出し合いたかった。
しかし、女子の間ではそういったものは子供っぽいという評価があった為、混ざらなかった。
混ざろうものなら、仲間ハズレにされる危険性もあったからだ。
『食らえ! 波動ビーム!!』
『うおおおおお! ならこっちも波動ビームだ!!』
『(くだらん)』
私は腕を組み、心の中で「くだらん」と呟きながら、それらを見ていることしかできなかった。
私は性別を気にしたことはなかったが、この時ばかりは男子になりたかった。
「この魔法を使えば……!」
この魔法があれば一時的にとはいえ、男になることができるのだ。
おまけにここはファンタジーの世界だ。
つまり、戦闘をしようが必殺技を放とうが、全くおかしくはない。
だが……
「私、令嬢だしなぁ……」
おそらく、戦闘などさせて貰えないだろう。
私はその日も豪華な料理を食べ、豪華な風呂に入り、就寝した。
◇
「今日も美しいね!」
「ありがとうございます」
今日も王子の元へ遊びに来た。
そうだ。
「王子、私のことを道具として見ているって、本当?」
「なぜそう思うんだい? 君は僕の愛するマイエンジェルさ」
「実は先日、王子が話していたのを聞いてしまいました。私は王子の品格を高める為の道具だということを」
「そんなこという訳ないだろ、マイエンジェル!」
「マイエンジェル、君は疲れているんだ。君のような心の清い存在は、常に周囲に善なるエネルギーを分け与えているというものだよ。そんな君にとって必要なのは、休むことだろう。疲れと言うのは、時に事実とは異なるものを映してしまうものだからね」
どういうこと?
「すみません。今日は失礼させていただきます」
「そうするといいさ」
と、私が部屋を出ると部屋の中から叫び声が聞こえた。
「道具の分際で……俺に逆らいやがって!」
この人と結婚したくないなぁ。
◇
私はこの後、住んでいる城へは戻らなかった。
いや、別に家でという訳ではないが、やってみたいことがあったのだ。
要するに寄り道である。
やってみたいこと、それはモンスターとの戦闘である。
本来、令嬢はそういったことをしてはいけないとは思うのだが、これから先あの男と結婚することを考えると、少しくらいワガママを働いても
「魔法発動! ヒーローモード!」
私がヒーローモードを発動させると、青白い光が私を包み込む。
光が収まると、まず目に入ったのが腕だ。
腕が太いのだ。
まるで、某戦闘民族の主人公並の筋肉なのである。
そして、服は半袖半ズボンになっており、元の豪華そうな服の面影はない。
「凄い! ……いや、すげぇ!」
私は少年漫画のキャラになってみたかったので、あえて雑な言葉を使ってみた。
その時である。
「誰だ!」
「え!?」
なんと、私のことを道具扱いしていた王子であった。
「誰でもいいだろ? そんなことより、どうだ?」
「何がだ?」
「この姿だ! かっこいいか?」
早く鏡を見たい。
別にイケメンでなくても構わない。
かっこ良ければいいのだ。
要するに雰囲気とか、そんな感じである。
「訳の分からないことをごちゃごちゃと……今の俺は、道具に逆らわれてイライラしているんだ。今すぐ俺の前から消えろ!」
「道具というのは、令嬢のことか? 随分と仲が良いとの噂だが、道具扱いとはヒドイものだな」
「道具に道具と言って何が悪い! 俺は王子だぞ! お前は俺を侮辱するというのか?」
「侮辱している訳じゃない。ただ、お前の言っていることは最低だということだ」
「なんだと!? 平民ごときが、王に逆らいやがって……!」
王子は剣を抜き、襲い掛かって来た。
私は振りかかって来た刀身を避けず、右手の人差し指と中指で挟んで止めた。
「なにぃぃぃ!?」
「っらぁ!!」
初めての体のハズなのだが、非常によく馴染む。
私は指2本で剣を折ると、王子の腹をぶん殴った。
「人は道具じゃねぇぇぇ!!」
「ぐはぁぁぁっ!?」
王子は吹き飛び、近くの木にぶつかり気を失った。
◇
《三人称視点》
王子は昔から才能があり、まともな努力というものをして来なかった。
魔法も少し勉強しただけでできるようになり、剣も大して練習していないにも関わらず、模擬戦では負けなしであった。
だが王子は先日、初めて敗北というものを経験したのだ。
この経験がきっかけに、王子は努力をするようになる。
そして……
「あの筋肉野郎! いつか絶対ボコボコにしてやる!」
令嬢が変身した男に対して、復讐を誓うようになるのであった。
「坊ちゃま、そろそろ食事の時間でございます」
食事の時間になったので、執事が庭で剣を振っている王子を呼びに来る。
「まだまだ!」
「坊ちゃま……立派になられましたね」
執事は努力する王子の姿を見て、涙を流すのであった。
少年漫画が好きな社畜OL、異世界で令嬢に転生する~男の姿に変身できるようになったので、少年漫画の主人公のように振舞う~【短編】 琴珠 @kotodama22
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