霧の中に、今も取り残され


成層圏に屯する細かい水の粒子が集まった
それは、古代から成層圏にて霧状の形態を
取って休眠しているという。途方もなく
長い周期の眠りから目を覚ますと、それは
地表まで降りてきて生き物を捕食する。

まるで、深海に揺蕩う竜宮の遣いの様な
  それ は、貌を変えながらゆらゆらと
空から降りて来る。それは、神降りとも
災害とも呼ばれて来た、或る種の 現象 
若しくは 特殊甚大災害 とも呼べる。
 それ は天より降りて地を浚う。生きる
ものを悉く喰らい尽くす。

被災地には濃霧が滞留するという。

一寸先は既に濃い霧に紛れ、自らの相貌と
記憶とを失くして行く。

「なぁ、俺は誰なんだ?」

途方に暮れた 呟き だけが、いつまでも
ずっと霧の中に取り残されている。