第5話 お仕事終焉
日曜日は恐怖に震えながら布団に潜っていたらいつの間にか終わっていた。
一刻も早くこの体験を誰かに話したかった。
月曜日、いつもサボっていた一限に出席し、その後すぐにオカ研に向かった。
オカ研も流石に午前中から来ているメンバーは知れている。
健の目に出来たくまとただならぬ雰囲気にオカ研内に緊張感が走る。
「なんかあったの?あったんだよね。」
舞に声を掛けられる。
「そうなんだよ、舞に勧められてお仕事に応募しただろ?」
「うん。でもあれは定員オーバーで結局申し込めなかったんじゃ…。」
「違うんだ、あのあと時間を見ていたら2時前後に更新されていることが分かって、眠れなかった日にたまたま早く応募できたんだ。」
「え、まさか。」
「そう、そのまさかだよ。応募できて実際に仕事をしてきた。」
周りにいた人もあまりの内容に気になったのかいつの間にか健を囲む形になっていた。
「マンションの鍵閉めっていう、この動画のなんだけど。」
実際に募集画面を見せながら説明をしていく。
「応募してからは事務局からメールが来て、この時まではよく出来てるなあってまだ疑ってたんだけど、実際に公園で待ち合わせをして、管理人の服まで渡された。」
実際にスクリーンショットに残した画面やメール画面を見せながら説明していく。
「管理人として潜入して、鍵が開いてないかどうかの確認をしていくだけなんだけど、開いてたんだよ鍵が!そこは部屋の中が漆黒なんだけど、腐敗臭がしてきて、でもその中にぎょろっとした目が二つあって、鍵を閉めると覚えたからとかなんとか言ってた。怖くて怖くて夢なんじゃないかと思ったんだけどメールとかさっきのスクショが全部残っててそれで…。」
あまりに取り乱した様子の健の話を嘘だと思う人はいなかった。
全てを一気に話終えるとはあはあと息が上がっていて、目は血走っていた。
「ひとまず落ち着いて。」
「落ち着いてなんかいられるか。俺は狙われているんだ。死ぬかもしれないんだ。」
周囲から何を言っても聞く耳を持たず恐怖に震えていた。
「俺の家は特定されちまったんだ。帰ってからすぐに家のドアをガチャっとする音が聞こえたんだ。あの家には帰れない。」
そう言い残して、大学を出ていく。
行く先もなくネットカフェに行くがより無防備な空間に眠れる訳もなく、時間とお金を無駄にしていく。
日中はまだ周りに人がいるからか落ち着いていることが多いが、夜になり周りが寝静まると途端に不安でどうにかなりそうだった。
そんなことがしばらく続き、目のくまは酷くなり、目はずっと血走っていた。
言っていることも徐々に思考がまとまらなくなり、支離滅裂になってきていた。
これは危険だと周囲が判断し、健を無理やり自宅に連れていく。
自宅が近づくと震えが止まらなくなり、本当に怖がっている事がよく分かった。
そして、問題の事務局から預かったであろう紙袋を見つける。
中身をひっくり返し、マニュアルを見つける。
ざっと確認すると最後にもしなにが異変があれば連絡をしろと書かれていることに気がついた。
すがる思いで舞は連絡をする。
健は「あぁ」「うぅ」と呻き声を漏らしているだけだった。
その間は他のオカ研仲間が見ていた。
暫くコール音が鳴り、やっぱりダメかと思いかけた時、低く落ち着いた声で「もしもし」と聞こえてきた。
「すみません、あの、飯田健の知り合いで、健がおかしくなっちゃってどうにかして欲しくて。お仕事に参加したって言うんです、助けてください。元に戻してください。」
「そうですか。では今からお時間はありますか?おひとりでは来られないでしょうから皆さん一緒で構いません。これからお送りする住所に来て貰えますか?もちろん全員分交通費は支給します。」
「交通費なんていいです。とにかく助けてください!」
「まあ、そう焦らずに。大丈夫ですから。」
送られてきた住所をすぐに確認し、みんなでタクシーに乗り込む。
助手席には舞が、後部座席には真ん中に健を囲むように座った。
健は相変わらず血走った目で「あぁ」「うぅ」と声にならない声を出していた。
目的地は寂れた倉庫街。
使われていなさそうな倉庫ばかりが並んでいてどこか不気味だった。
恐る恐る言われた倉庫に近づく。
少し電気が漏れていて、陽気な音楽がかかっていた。
そっとドアを叩くが中から何も反応がない。
今度は少し強くドンドンと倉庫を叩く。
すると誰かが近づいてくるのが雰囲気で分かった。
「早かったですね。御足労いただきありがとうございます。どうぞこちらへ。」
倉庫の中は木箱が幾つか積み重ねられているが、中央には茶色い革で作られている大きなソファとガラスのテーブル、一人がけの椅子が置かれていた。
更に奥には暗くてよく見えないが、何か機械が置かれているようだった。
「まあこのソファにでも座って下さい。ここまで来るのは大変でしたか?飯田さんは…まあ大変そうですね。」
どこからか冷たいココアを人数分グラスに入れて持ってきた。
「どうぞ。今日は冷やしておきました。」
健はよく確認もせずごくごくと飲んでいく。
「すごいですね。よほど喉が渇いていたんでしょう。彼には簡単に言うと記憶の改ざんをさせてもらいます。ここまでになってしまったら記憶を消さないとダメでしょう。ただ、その代金を差し引いてもかなりの金額が彼の口座に振り込まれます。なので、適当に宝くじが当たったとしておきましょう。実際の出来事との互換性がないといけないですからね。しかし提示した金額を払わないのは詐欺ですからね。何も怖いことはありません。一瞬の作業ですし、安全です。」
そんな胡散臭い話をとても信じられなかったが、元に戻るなら何でもいいと思った。
「お願いします!!!」
「じゃあ一応この誓約書にサインをしてもらってもいいかな?誰でもいいんだけど、もし万が一のことがあった時のためにね。ちなみに少なくとも100件は記憶の改ざんはしてきている。でも失敗は一度もない。大丈夫だ。」
舞が代表してサインを書く。
健はみんなにもたれるようにして奥の部屋に入っていく。
奥の部屋の電気がつくとそこには大きなベッドが1台置かれていた。
その上に頭がすっぽり覆われるくらいの大きさの機械が設置されている。
見た目は昔のドライヤーのような雰囲気だ。
ただ、そこから伸びるコードはあまりに多く不安を感じる作りだった。
そのすぐ側には小さくガラスで仕切られた部屋があった。
「他の皆さんはこの部屋にいないと記憶の改ざんに巻き込まれてしまうからね。」
といいながら慣れた手つきで健の手足を固定していく。
「ちゃんと頭に当てないと行けないから固定させてもらうよ。終わったら直ぐに解放するからね。」
変わらず落ち着いた声で慣れた様子で進めていく。
準備が出来ると服部も小さなガラスの部屋に入る。
そこにある小さな機械を手早く操作していく。
いつの記憶をどのように書き換えるかは手入力している。
「ちょっと眩しいかもしれないな。じゃあいくよ。」
宣言通り辺りは一瞬強い光に包まれた。
まだ目がチカチカしているが健を見ると安心したような顔でスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。
「今日はこの後特に予定はないからここで寝ていくと良い。みんなもゆっくりしていってくれて構わない。簡単な料理くらいなら私も作れるからね。」
そう言うとひと仕事終えた顔で一人がけの椅子に戻っていく。
服部はいつもココアを飲んでいる。
3時間程が経ち、健が目覚めた。
ここは宝くじのお金を取りに来たとでもなっているのか特に驚く様子もなく、「流石にビックリして意識を失ったのか。俺もまだまだだよな。」なんて呑気なことを言っている。
周りは元の健の様子に安堵し、舞は涙を浮かべていた。
「そんな泣くほどじゃないだろー。あ、お金はやらないぞ。」
服部の倉庫を後にして、タクシーで大学まで戻る。
服部はその場で行きに払った分のタクシー代を現金支払いし、帰りの分は少し多めに渡してくれていた。
安心してタクシーに乗り込み、帰りは浮かれた話をしながら帰ってきた。
健はそれから、何故あんなにオカルトに興味を持っていたのか分からないくらいオカルト熱が冷めてしまい、オカ研にもあまり参加しなくなっていた。
オカ研メンバーは相変わらず未確認生命体や未確認飛行物体を追いかけている。
そして大学の近くにいい物件をたまたま見つけ、健は引っ越した。大学の近くだからと舞や大学の友達は時々遊びに来ている。
前に住んでいた物件はまだ住んでいる人がたくさん居たはずだが、なぜか取り壊しが決まったらしい。
「人生はなにがあるかわかんないなーこれが第六感ってやつか?」と笑っている。
某SNSのお仕事紹介は今もひっそりと投稿を続けている。
お仕事紹介 紫栞 @shiori_book
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