茂みにできた穴の先は

そばあきな

茂みにできた穴の先は

「……あれ?」

 学校から出てしばらくした帰り道、あることが気になって僕は立ち止まる。


 僕が毎日歩いている通学路には、途中に空き家のある通りがあって、その空き家を囲むように草が生い茂っている場所があった。

 空き家なので、誰かが来ることもなく草が踏み荒らされることもない。

 そのおかげで人に邪魔されずに成長し続けた、長くて太い草がここには隙間なく生えていたはずだった。


 しかし今、その茂みの中に、ちょうど僕くらいの体格なら入れそうな穴がポッカリと空いていたのだ。


 今日の朝に登校した時にはなかったはずだ。

 学校で授業を受けている間に、草が切られてしまったのだろうか。


 気になった僕は、いつもなら素通りする茂みに少しだけ近づいて、穴の中を覗いてみる。

 けれど、穴の中は真っ暗で、ここから見ただけではその先も何があるかは分からなかった。


 そうしていると、僕の中にある冒険心がくすぐられる。


 この先には、一体どんな景色があるのだろう。

 普段は見られない景色が見られるのだろうか。

 もしかしたら、この穴を作った人にも会えるのかもしれない。


 __今すぐ見てみたい。

 そう思い、ゆっくりと足を踏み出そうとした時だった。


大神おおがみくん」

 その声で、ハッとして振り返る。

 そこには、隣の席の戸張とばりさんが立っていた。


「道の真ん中で何してるの?」と戸張さんが首を傾げる。

「えっと、ここに穴があってさ……」


 そう言いながら穴を指そうともう一度視線を茂みに向けると、おかしなことにさっきまであったはずの穴はどこにもなかった。

 いつの間にか、朝に通った時と同じように草が隙間なく生えた茂みに戻っている。


 戸惑う僕の横で、戸張さんは「穴?」と茂みを見て不思議そうにしている。穴がなくて疑問に感じている戸張さんには悪いけれど、当の僕にもわけが分からなかった。


 確かにさっきまで、この茂みには僕が入れるくらいの穴があったはずだった。

 それなのに、今見てもどこにも穴がない。

 これはどういうことなのだろう。

 僕の頭にはハテナマークでいっぱいだった。


「いや、さっきまでここに穴があったはずなんだけど……」と、言い訳みたいに僕が話していると、戸張さんは「もしかして」と何かを思いついたように口を開いた。


「キツネに化かされたんじゃない?」

「キツネに?」

「おとぎ話でもよくあるじゃない? 暇だったから、近くを歩いていた大神くんを騙して遊んでいたんじゃないかな」


 それならもっと別のことをして遊んでほしいと思う。

 危うく僕がおかしなことを口走っている男だとクラスメイトに思われるところだったじゃないか。


「でもよかったね、入らなくて。こんなところに入ったら、草で切って擦り傷だらけになるところだったよ」


 戸張さんは僕の身体を心配しているみたいだったけれど、僕は別のことが気になっていた。



 もし戸張さんに声をかけられることなく、あのまま茂みの中に入って行ったなら、どうなっていたのだろう。


 その先のことは、いくら考えても分からなかった。

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