カエル(バージョン2)

 貞之助さんが戦地へ向かう前、ふたりで神社へ出かけた。


 杜の中で私が服の乱れを整えていると、貞之助さんがカエルを手に、「これは縁起がいい。私は帰って来れそうだ」と微笑んだ。私はつまらないだじゃれだと思った。貞之助さんはカエルを逃がしてやり、拝むしぐさをみせた。


 貞之助さんは大陸から戻って来なかった。

 戦後、私は再婚した。相手は、美男子だった貞之助さんとちがい、ぶさいくな男だった。毎日のように夜の相手をさせられたが、貞之助さんよりうまかった。


 そんなある日、洗濯物を洗っていると、川を泳いできたカエルに話しかけられた。

「僕だよ、貞之助だよ。神様のお力でカエルの姿になって、戻ってくることができた。これから一緒に仲良く過ごそう」

 突然の言葉に、私が戸惑っていると、背中のほうから夫の声がした。

 「だれだい」とカエルが口を開いた。

 私は余計なことを話されては困ると、カエルを一気に飲み込んだ。


 それからとくに異常はない。

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カエル 青切 @aogiri

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