カエル
青切
カエル(バージョン1)
貞之助さんが戦地へ向かう前、ふたりで神社へ出かけた。
杜の中で私が服の乱れを整えていると、貞之助さんがカエルを手に、「これは縁起がいい。私は帰って来れそうだ」と笑った。私はつまらないだじゃれだと思いつつ、愛想笑いした。それから私は自分の陰毛をお守りの中へ入れて、貞之助さんに差しだした。貞之助さんはカエルを逃がして、受け取った。
貞之助さんは大陸から帰って来なかった。徴兵がもう少し遅れていれば、戦地へ着く前に戦争は終わっていただろう。間の悪い話だった。
戦後、私は再婚した。再婚相手は、美男子だった貞之助さんとちがい、ぶさいくな男で、カエルに似ていないのがゆいいつの救いだった。毎日のように夜の相手をさせられたが、貞之助さんよりうまかった。
結婚した後の梅雨の時季。
夜、夫に抱かれながら、カエルの合唱を聞いていると、それが貞之助さんの恨み言のように聞こえて、気が滅入った。しかし、数年すると慣れてしまった。
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