エレメンタル・サモン

堂場鬼院

第1話 少年

 山間の村を一人の少年が通りかかった。彼の身なりは一風変わっており、村人たちは物珍しそうにその姿を見つめていた。

「もうし、そこの旅の御方」

 少年に声をかけたのは、村の長だった。村の生き字引だった彼は、少年の身なりはもちろん、その端整な顔立ちにも心当たりがあった。

「あなた様はもしや、召喚士様ではありませぬか?」

 声をかけられた少年は振り返り、被り物を少し上げて答えた。

「いかにも。ぼくは召喚士です」

 にっこり笑うその顔を見て、村の長は確信した。

「やはり……失礼ですがあなた様は、かの有名な召喚士、シン殿のご子息では……?」

「父を知っているのですか!?」

「はい。シン殿には個人的に大変懇意にしていただきました」

「父がどこにいるかご存じですか!? ぼくは父をずっと探しているのです!」

 必死に話し始めた少年を、村の長は手で制した。

「このような場所でシン殿のご子息と出会えたのは、まさに運命。ゆっくりとお話しさせていただきたいと思います。どうぞこちらへ……」


 村の長は少年を家に招き、粗末ながらも歓待し、召喚士シンについて話をした。

「シン殿は私の命の恩人なのです。旅の途中、病を患った私を、たまたま通りかかったシン殿に介抱され助けられました。いつかその御恩返しができればと常々思っておりました」

「それはいつのことです?」

「闇の召喚士、ネクロスが現れた直後のことでございます。ご存じのようにネクロスは闇のカードをばらまきました。世界の秩序は乱れ、渾沌がはびころうとしています」

「父はカードの神、カルディアスの啓示を受け、ネクロスの出現を予測していました。ネクロスによる支配を止めようと旅に出たのですが間に合わず、そのまま音信不通になってしまい……」

「なるほど……それでご子息が旅に出られたと」

「はい」


 そのとき、家の扉が荒々しく開かれた。

「邪魔するぜえ!!」

 現れたのは特徴的な長い髭を持つ背の高い男。不敵な笑みを浮かべつつ、机の前に座っている少年と村の長を交互に見た。

「この村の長ってのはおめえだな? ちょい顔貸せや」

「何だ貴様は? 用があるなら名を名乗れ!」

「フッ……聞いて驚くな? オレ様はあの有名な召喚士、シン様だ!! ひれ伏せ下民ども!! ぬあーはっはっは!!」

 場は一気に冷めた。少年も村の長も冷ややかな視線を男に向けた。

「……な、何だあてめえら!? この超有名なシン様の顔も知らねえってのか!?」

「この愚か者。とっとと入った扉から出ていくがいい」

「おっとジジイ! てめえ誰に向かってそんな口利いてんだ、あん? オレ様が穏やかに話してる間にいうこと聞いた方が身のためだぜ?」

「それはおぬしの方じゃ。この村には血の気の多い若い衆もおる。早々に立ち去るがよかろうぞ?」

 村の長がそういうと、男はチッチッチと指を振った。

「甘いぜジジイ、甘々だ! オレ様にはがあるんだぜえ?」

「何じゃと!?」

 男は懐から禍々しい気を放つ一組のカードを取り出した。

「オレ様のいうことを聴かねえと、どうなるかわかるな? 家は押し潰す! 村は焼き払う! 女、子供は売り飛ばす! ぬわーはっはっは!!」


 それまで静かに椅子に座っていた少年が、立ち上がった。

「……お前の気持ちはよくわかった。表に出ろ。相手になる」

 子供の口調とは思えず、男は面食らった。

「なっ、何だこのクソガキ? ケガさせられてえのかよ?」

「ケガで済めばいい方だが」

 被り物を脱いだ少年が、懐から一組のカードを取り出した。

「げっ……召喚士だと?」

「どうした? 怖気付いたか? とっとと出ろ。カードが闘いたくてウズウズしているぞ?」

 少年が持つカードの束が小刻みに震えている。

「……よ、よおしっ!! やってやろうじゃねえかっ!!」

 少年と男は家の外に出た。

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