心の階段

ヤマシタ アキヒロ

心の階段

お母さんが風邪を引いたので

ぼくも一緒に病院へ行った


診察室はイヤなので

ぼくは待合室でひとり

絵本を読むことにしたんだ


マスクをしてるけど

ぼくは風邪じゃないよ


絵本のタイトルは「かいだん」

というんだ


 いきなり高いところへは

 行けません

 少しずつ

 歩幅に合わせて

 かいだんを昇るうち

 いつのまにか

 頂上につくのです


絵本の主人公は

同じ小学生

野球帽をかぶり

いろんな階段を昇っている


神社への階段

ビルへの階段

ジャックと豆の木のように

空までつづく階段


はたまた

海の底へ

降りていく階段

お魚たちや

エビや珊瑚礁と

楽しそうに遊んでいる


(どうやって息をするんだろう)

ぼくは楽しい気分で

天井を見上げた


階段って便利だなあ

それがあれば世界じゅう

どこへでも歩いて行ける


ぼくは目を閉じて

いろんな冒険をする

夢をみた


ところが

どうしても一つだけ

たどり着けない場所があった


それはクラスで一番かわいい

とまでは言わないが

最近ぼくが気になっている

あの子の心の中だ


 一歩ずつ

 昇って行く

 だけどどうしても

 途中で消えてしまう


あの子の姿は

すぐそこに見えているのに

途中の階段が

なぜか見つからない


ぼくは背中を丸めて

大きくため息をついた


心の階段は

なかなかうまく昇れないな―――


そうこうするうち

診察が終わり

お母さんが出てきた


「今日は時間もないし

 カレーにしようか」


ぼくは飛び上がって喜んだ

お母さんの手を取り

背中を押した


不思議だなあ


こんなにカンタンに昇れる

階段もあるのに……


          (了)

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