天国への帰還

セオリンゴ

吹け、ファンファーレを。

 4人の大天使、ミカエル・ラファエル・ガブリエル・ウリエルは張り切っていた。  

 いよいよ終末のラッパを吹く日が来たのだ。


 ミカエルはうねる金髪を掻き揚げ、高らかにラッパを掲げた。

 場所はバチカン市国聖ピエトロ寺院の広場である。

「ぷぉ~~ん。ぷおおぉ~~ん」

 観光客の度肝を抜く下手くそさは瞬く間にSNSで世界中に配信され、『音楽への冒涜』『教皇に謝れ』『天使コスプレは他でやれ』など非難のコメントが止まらない。


 同時刻、ラファエルはストレートの金髪をさらりとなびかせ、ラッパを掲げた。

 場所はUSAの大都市ニューヨーク、タイムズクスエアである。

「公道のパフォーマンスは市当局の許可が必要だ。ほい、許可証をみせんかい」

 ニューヨーク名物、騎乗警官たちがラファエルにずいと迫る。もちろんニューヨーカーたちのSNSで配信される。ラファエルの周囲に馬糞の匂いが立ち込める。


 少々遅れてガブリエルは金髪にハチマキを締め、ラッパを掲げた。

 場所は東京都千代田区皇居正門前である。

 丸の内警察署祝田町見張所に声が響く。

「不審者一名。ラッパ状の武器を所持。機動隊出動を要請!」

ラッパの音がサイレンの大音量に掻き消されていく。遠くから皇居勤労奉仕団御一行が一斉にスマホを向け、TV局の中継車が押し寄せた。


 ウリエルは冷静だった。

「誰にも邪魔されない場所でラッパを吹くべきだ」

彼が向かった場所は世界最高峰エベレスト山頂。羽を使い、らくらくたどり着いた。

「よし、終末の始まりだ」

 ウリエルがラッパに口を付けたとたん、激痛が走った。マイナス20℃に凍ったラッパが唇周辺を凍傷で赤く染めていく。ウリエルは顔から離れないラッパを握りしめ、豪快に滑落していく。


「ああ、今度も終末は見送りか。人間世界はしぶといものよのぅ」

ゴッドは泣きながら帰ってきた4大天使たちを軽~く慰めるのだった。

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天国への帰還 セオリンゴ @09eiraku

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