二年参りの甘酒

猫煮

冷めた甘酒は美味しくない

 振る舞われた甘酒を飲まずに、液面をじっと見てみた。

 ここまで歩いた揺れで波だった白い水面は、何も映していない。


 それでも飽きずに見ていると、液面からひょいと小人が出てきて、つま先立ちで言った。

「我こそは百代の過客、かの骨を拾い上げた猿の時代より最後の人骨を焼き捨てるまでを旅する者なり。そこなる人よ、今は善悪のコインを投げてから月の幾度巡ったときか」


 答えずに小人の太った赤い腹を眺めていると、小人の左目を溶かして毛虫が出てきてつま先立ちで言った。

「我こそは太陽の化身、残り僅かな命を懸命に燃やさんと足掻く者なり。そこなる人よ、ラグランジュポイントよりの文が届くのは月の幾度巡った先か」


 それにも答えずに毛虫の太った緑の背中を眺めていると、液面がすべてを飲み込んで海のさざめきのように言った。

「我こそは神、すべてを与えすべての道を敷いた者なり」


 すると、小人と毛虫が頭だけを出して口々に言った。

「我はそんなこと認めておらぬぞ!」

 三者三様に罵りあいが始まり、それがあまりにも煩かったので甘酒をぐいと飲み干す。


 甘酒は冷めていた。

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