第4話 柴くんは……

 薄暗い閉鎖空間の中で真面目な話をする柴に緊張感が走る天美。唐突に明かされた正体に中々声が出ない。


「質問があれば聞いてくれ」


 天美はそれを聞くと今までの発言に質問してみた。


「柴くんがいた世界って剣と魔法のやつなの?異世界転生しちゃったとか…」

「その認識でいい。けど、転生じゃなくて転移が正解だね」


 漫画やアニメの出来事が現実になるとは誰が想像できるか…転移について新たな疑問が思い浮かんだ。


「何故こっちの世界に?普通私たちの世界から剣と魔法の世界に来るものじゃないの?」

「敵の転移魔法にやられてね。気付けばこの世界にいた。なるほど、この世界では逆のイメージなのか」

「逆?」

「俺の世界では転移魔法で別世界に飛ばす魔術師がいてね。もしかすると俺以外の人もここに来ているかもしれないね」


 柴以外の人がいると思うと滅茶苦茶になるかもと不安に思えて来た天美。この人レベルの変人じゃないことを祈るしかない。


「じゃあ…今までの実験の意味は何?」

「この世界ならではの術式を作っていたんだ。物によって宿る魔元素の仕組みが元いた世界とだいぶ違うからね。いろいろ試していたんだよ」

「魔元素?」

「錬金術師の手で科学記号を弄って魔元素に変えてたんだ。すると思ったより複雑で大変だったよ」


 そして柴は立ち上がる。


「だが、遂に!俺が求めていた術式が完成したのだ!」

「完成って…何をするつもりなの?」

「何って、帰るんだよ」

「帰る?」

「そう、元の世界に帰る」


 天美は一瞬危ない魔法で征服を企んでたのかと思っていたが、帰るという言葉に安堵した…が。


「え、ちょっと待ってよ!学校はどうなっちゃうのよ?柴くんが失踪したとなったらある意味大事件よ!」

「そこは心配しなくていいよ。俺がいなかった世界に改変されるはずだから。それに、元の世界で待っている仲間たちの安否も早めに確かめたいんだ」


 そう言いながら、柴は移動し始めた。奥にある大きな扉を開けて中に入る。


「祠堂さんもこっちに入りたまえ」


 天美は呼ばれて奥の部屋に入る。そこには今まで見たことある実験材料が中央や周辺に置かれていた。


「さて、最後の選択肢をあげようか」


 柴はくるりと周り天美に問いかける。


「俺が帰る姿を見届ける。この場合は君だけは俺のことを忘れずにいられる」

「忘れずに…」

「もう一つは見届けずにこの空間から立ち去ること。つまり君は何故か橋の下でボーッとしていて俺の存在を完全に忘れることが出来る」

「……」

「さぁ、どっちがいい?」


 天美は考えた。柴との絡みは碌な事しかなかった。だけど、その中に普通の日常では味わえない経験があった。ある意味天美の高校生活は柴がいたからこそ楽しめたのだ。それを忘れたくない。本当は帰ってほしくないと思った。だから答えは決めた。


「見届ける。学級委員長として最後まで問題児を放っておくわけにはいかないでしょ!」

「さすが委員長、責任感あるねぇ!」



 そして術式展開の時、「衝撃には気を付けとくように」と柴が大量のナット付きネジを差し込んだみかんを中央に投げつけて爆発させた。すると暴風が部屋全体を包み雷が複数落ちて来る。やがて天井には黒い煙が立ち込めて暴風と共に中央に収束する。最後に出来たのは小さな銀河系のような球体が浮いていた。


「完成だ!上手に出来ましたっと」

「これで帰れるの?」

「元の世界の転移魔法はだいたいこんな感じだ。あとは帰る世界をちゃんと思い浮かべながら入ると問題ない」


 天美はもうお別れかと落ち込んでいる。その顔を見てとあるものを取り出す。


「そうだ、これを受け取ってくれ」


 と柴は天美に何かを渡す。カエルのキーホルダーのようだ。


「何これ可愛い…」

「魔元素の仕組みで見るとこれには幸運の効果があってね。これを俺の代わりにしたまえ」


 柴はそう言いながら大きい荷物を抱える。


「柴くん…また会えるかな?」

「女神のみぞ知る…だね…じゃあね。天美さん」


 手を振りながら柴は球体に向かい光のなかへ消えた……。




 気が付けば天美は橋の下にいた。もう21時を過ぎており早く帰らなきゃとカエルのキーホルダーを強く握って帰宅した。




 あれから柴が消えて1週間経った。クラスメイトも桜さんも先生たちも柴のことを忘れていた。今日も平和すぎる高校生活を迎えようと登校する天美。教室をガラッと開き自分の席に着いた。


「あれ?」


 天美は気付いた。柴が消えたあと隣にあった柴の席は他のクラスメイトの席になっていたのだ。しかし、そのクラスメイトは柴がいた時の頃の席に座っていたのだ。

 まさか……。


「こらぁぁぁぁ!!実験室の道具を使ったのはお前かー!!」

「いいじゃないですかー壊れた備品はありませんですし」


 大きく怒鳴る先生と柴の声が聞こえた。柴は何事もなく席に着いた。


「柴くん、なんでここに!?」

「あー、あの後仲間の無事を確認してね。それから便利な転移魔法道具を手に入れてさぁ!この世界にまだまだ面白い実験が出来るかもって遊びにきたわけなのさぁ!いつでも帰れて最高だよ本当に!」


 柴は天美に向かって笑顔で言った。


「これからもよろしくね!天美さん」

「戻って来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 天美はカエルのキーホルダーの付いたカバンで柴の頭を叩いた。

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柴くんはよく爆発させる きいろいの@入院などでお休み中 @kiiroino

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