雪道のヒーロー(フロスティの場合)

RIKO

雪道のヒーロー(フロスティの場合)

 北の国の小さな村に、シルヴァーブライト(銀の輝き)という名の若い魔法使いが住んでいました。彼は動物研究者でもあり、白い毛皮のロングコートを纏い、銀色の長い髪を風になびかせ、肩にはユキヒョウのフロスティを乗せて歩いていました。

 その姿は村の女の子たちの憧れの的でした。そして、フロスティは村の子猫たちにとってのヒーローでした。


 白と黒のハチワレが言いました。


「いつ見ても、シルヴァーブライトさんのフロスティは素敵だにゃ」


 三毛猫のキャリコも言いました。


「ほんとう、すてきだにゃ」


 真っ白なミルクも言いました。


「ほら見て、フロスティが残した雪の上の足跡!芸術的だにゃ」


 三匹は雪の上の足跡に見とれ、その足跡を真似しようと決心しました。けれども、同じコースを歩いてみたものの、フロスティのような美しい足跡は残せませんでした。


ちょうどその時、通りかかったのが、魔法使いシルヴァーブライトでした。


「あはは、駄目だよ。君たち猫科はつま先だけで歩くんだから、雪の上でも素早く歩けるし、早く走れる。だから、足跡はつま先だけになる。それは、実に美しいフォルムだ。けれども、君たちはそんな可愛い靴を履いてるんだもの、残念ながら、その靴の足跡はそう美しいとは思えないね」


 三匹は顔を見合わせ、ぷぅと頬を膨らませました。


「だって、この靴は飼い主のメイコさんが買ってくれた大事な靴だもん。脱ぎたくないもん」

「靴を履かないと雪の上は冷たいもん」

「しもやけになっちゃうもん」


 肩をすくめるシルヴァーブライト。その時、彼の肩からフロスティが飛び降り、鼻をつんと鳴らして、つま先だけで優雅に雪の上を歩いてみせました。


 三匹の子猫たちは、フロスティの足跡の美しさにため息をつきました。


 「ああ、素敵だったにゃー」


 さっくさっくとその足跡を見ながら帰る三匹。その足には可愛い靴が履かれていました。


 シルヴァーブライトは肩に戻ってきたフロスティの頭を撫でながらくすくすと笑いました。


「お疲れ様。実際、お前も冷たい雪の上を歩くのは嫌だろ?」


 フロスティが彼の肩に乗っているのは、冷たい雪を避けるためでした。

 フロスティはつんと澄ました声で言いました。


「ファンの子猫たちの手前、そんなこと言えないよ」


「靴、魔法で出してやろうか?」


 笑って言うご主人に、フロスティは首を横に振るのでした。



          ~ 完 ~

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