ENERGY★SCOOPS

氷菓子屋

第1話 ランク外からのスタート

2124年――紫のネオン輝く未来都市の街角。


街行く人々の頭上にはホログラムの数値が浮かんでいた。赤、青、黄――視覚化された評価はヒトの価値を示す色となり、すれ違う人のステータスが一目瞭然である。


ヒトの価値を示す数値は【CTV(Cool Time Value)】――外見や地位ではなく、どれだけ自己実現を追求し、その結果、他者の幸福に貢献できたかを示す指標だ。


「おめでとうございます!今週のCTVランキングもアイスクリームブランドの御三家が上位独占!1位は王都さん、2位は亜門さん、3位は心恋夏さんです!4位はーー。


街頭スクリーンが電子音声で知らせるたび、歓声が街全体を包む。


――ただ生きているだけでは“価値”は証明できない。

そんな現実に、ある者は笑い、ある者は肩を落とす。


「見てろよ!今度の新商品で、おれは必ず巻き返す!」


冷たい空気を引き裂くように、菓子ユウキの声が店内に響いた。


老舗アイスクリーム店「菓子家」。かつてこの場所は、夏の冷涼なオアシスとして地域に愛された。しかし、時代は変わり、御三家ブランドが脳波コントロールの機能を高めたことで業界を席巻していた。


新商品「クリームブリュレ×エナジーチャージ」。


焦げたカラメルの香りが広がり、濃厚なバニラが口の中で溶ける。そこに最新のニューロサーマルインフュージョン技術を加え、脳波を「ハイベータ波」から「アルファ波」へと整える――まさに、心地よい覚醒を促す特別な一品だ。


「この味と機能を知れば、必ずリピートするはずだ……!」


ユウキの目は燃えるように輝いていた。


発売初日――。


店の入り口の電子ドアが開くたびに、常連客たちの笑顔が溢れる。


「これ、すごく美味しい!脳がすっきりする!」

「まるで頭の中がリセットされたみたいだ!」


ホログラムスクリーンに表示された販売数は、開始2時間で500個を突破した。


「やった……!」


ユウキの胸に熱いものが込み上げた。


しかし――1ヶ月後。


「今月の売上データ……ひどいな……。」


壁に映し出されたリアルタイムデータは、まるで冷たい現実を突きつけるように無惨な赤字を示していた。売上グラフは、右肩下がりのラインを描いている。


「新規顧客獲得数、初週比で70%減少……。リピート率は8%……。」


数字がすべてを語っていた。


ネット上のレビューも厳しかった。「美味しいけど特別感がない」「話題にならない」といった声ばかりだ。


「次は年間アイスクリーム売上ランキングの発表です!」


街頭スクリーンに映し出される御三家ブランドの新作CM。広がる映像には、家族や恋人たちが特別な時間を共有し、心温まるストーリーを描いていた。


1位「王都スパークルブレンド」――累計売上2,500万個突破。

2位「心恋夏ふわっふわプレミアム」――視聴者投票満足度98%。


ユウキはランキングの下位まで目を凝らした。


――だが、そこに「菓子家」の名前はなかった。


「ランク外……か。」


ユウキはカウンターに手をつき、深く息を吐いた。


「これだけ準備したのに……。」


脳裏に浮かぶのは、何度も試作を重ねた日々、店の奥に響いた笑い声、何より**「本当に人を笑顔にしたい」という想い**だった。しかし、その想いは結果として数値化されることなく、消えていった。


「お前のアイスは、誰かの心を動かしているのか?」


低く鋭い声が響いた。


「……!」


背後を振り返ると、そこには黒いコートを纏った男が立っていた。冷静で鋭い瞳が、まるで心の奥を見抜くようにユウキを見据えている。


「誰だ……?」


男はゆっくりと歩み寄り、カウンターの上に置かれた試作品を手に取った。


「たしかに美味い。だが、それだけだ。」


冷たい刃のような言葉が、ユウキの胸を突き刺す。


「――ただ美味いだけでは、誰の心も動かせない。」


ユウキの拳が震えた。


「……そんなこと……わかってる……!」


だが、頭では理解していても、何を変えればいいのかわからない。


男は試作品を静かにカウンターへ戻し、冷徹な声で告げた。


「届けるべき“価値”を知れ。それがわからなければ、この戦場で生き残れない。」


その言葉は、ユウキの心に深く刻まれた。


「届ける価値……?」


無数の数値に支配される時代の中で、「本当に届けたいものは何か?」――その問いが、ユウキの心に重くのしかかった。



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