●第7章:新たな地平へ

 古代文明の警告から一年が経過していた。世界は、緩やかではあるが、確実な変化を遂げつつあった。


 風蘭は今、研究所の新設された「意識進化研究センター」の主任研究員として、世界中から集まる「共鳴者」たちの指導に当たっていた。彼女の周りには、常に不思議な光の輪が漂っている。


「人類は、新たな段階に入ろうとしています」


 風蘭は、センターに集まった若い研究者たちに語りかける。


「しかし、それは決して強制的な変化であってはならない。一人一人が、自分のペースで、自然に目覚めていくべきなのです」


 彼女の言葉は、単なる音声としてだけでなく、直接的な意識の共鳴として伝わっていく。その場にいる全員が、彼女の真意を深いレベルで理解することができた。


 九条は、そんな風蘭の姿を遠くから見守っていた。彼の目には、彼女の周りに漂う光が、かつてないほど穏やかに輝いて見えた。


「人類の進化は、これからも続いていく」


 風蘭は空を見上げながら、静かに語った。


「でも、それは決して一つの方向に強制されるものではない。私たち一人一人の中に、無限の可能性が眠っている。その可能性に目覚め、自然な形で発展させていく。それこそが、真の進化の姿なのです」


 研究所の窓から見える夕暮れの空は、不思議な輝きを帯びていた。それは、かつてトバ火山の噴火で失われた古代文明の光とは異なる、より穏やかで持続的な光だった。


 人類は今、新たな進化の段階に踏み出そうとしていた。それは、古代文明が技術で強制的に目指した統合とは異なる、より自然な、そして確かな変化だった。


「私たちの旅は、まだ始まったばかり」


 風蘭の言葉が、静かに夕暮れの空に響いた。


 彼女の瞳に映る未来は、もはや不安や恐れに満ちたものではなかった。それは、希望に満ちた、新たな地平線だった。


(完)

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【SF短編小説】共鳴する記憶  ―七万四千年前からの警鐘―(9,904字) 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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