第3話 振動

「さぁ、祈りの時間だよ。皆ちゃんと

並んで座って」


「はぁい!」


子供達は博士の言うことを素直に聞き

先ほどと同じように並び始めた。

博士はその様子をうんうんと頷きながら眺めており、子供達が並び終わり顔を伏せた瞬間博士の顔から笑顔がスッと消えた


「さぁ、皆。亡くなった人々に祈りを捧げましょう。安らかに眠れるように」


子供達が目を瞑る。

すると、床から振動が伝わってくる

博士曰く、祈りを捧げることによって亡くなった人々が喜んでいるのだ。と言っていた

この世界であれば未練を残した人々が魂だけ残っているのではないかと信じてしまう。

情報も少ない、あるとすれば物語や昔の風景を写した写真集くらいだ


(安らかに眠れますように)


結衣はギュッと目を瞑り、亡くなった人々の魂の安寧を願った


「さぁ、皆目を開けて。祈りの時間は終わりです。この後はいつものようにお風呂に入って寝ましょうね」


「はーい!」


まだ幼い子供達はやっと終わったと言わんばかりに我先にと部屋のドアから出て行く

結衣は今日は誰がいなくなったのか。と辺りを見回した


この日居なくなったのは、まだ5歳だった

乃亜という麻色の紙を持った少女だった


「結衣」


「え!?あ、何?美冬」


そんな結衣に声をかけてきたのは美冬だった

美冬は少しいつもより眉間に皺がよったような顔をしていた


「今夜、ちょっといい?」


「え?う、うん」


「じゃあ就寝時間が過ぎたらこっそり部屋から出てきて」


「わ、わかった」


本来なら就寝時間を過ぎてはダメだというのだが、あまりにも真剣な美冬の表情に頷くしかなかった


「あれ?どうしたの2人とも、お風呂入らないの?」


「あ!雨!」


そんな2人の元にやってきたのは雨という

2人と同い年である15歳の少女だった


「…ちょうどよかった。雨も来て」


「え?何処に?」


「就寝時間が過ぎたら、私の部屋に来て

見せたいものがあるから」


「う、うん分かった」


あまりの気迫に押されて、雨も頷いた

そして、その返事を聞いた美冬はそのまま部屋から出て行った

2人はよく分からず顔を見合わせた。


風呂に入っている間も、結衣は美冬が用事があるなんて。と疑問に思っていた

今まで、美冬から話しかけるようなことは数えるくらいしかない。基本的に用事がある時くらいしか話しかけてはこないし、こちらから話しかけない限りは最低限の会話もしてくれない


だからこそ、そんな美冬が自分たちに真剣な顔で頼んできたことを断ることができなかった




⚡︎⚡︎⚡︎


風呂を終え、全員が眠りについた頃

結衣はベッドから起き上がり、こっそりと部屋を出た。

周りを見回して、誰もいないかと確認してから美冬の部屋の前まで足早に走った


「あ、雨〜」


「結衣」


美冬の部屋の前には雨と美冬が待機していた美冬は何故か寝巻きではなく、運動をするときに使う動きやすい服を着ていた


「行くよ」


「うん、でも何処に行くの?」


「…見たらわかる」


美冬は何か思い詰めたような表情をしており、結衣と雨は先に進む美冬の後をついて行った


この後、地獄を見ることになるとは

この時の2人は思いもよらなかった

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