第2話 祈りの日

翌日、春は昨夜から先生の元に行ってからまだ帰ってきていなかった。

体に何かあったのではないかと結衣は心配していた。


(大丈夫かな)


「結衣、早くしないと授業に遅れるよ」


「あ、先生!ねぇ春は大丈夫?」


「春は少し病気が見つかったから様子を見ているだけだよ。大丈夫、『博士』に任せなさい」


「うん」


結衣は、少しの不安を抱きながらも

この施設で自分たちを無償で育ててくれる

この優しい大人たちがそんなことをするはずがないのだと信じていた。


それは結衣だけでなく、他の子供たちも同じだ。基本的に大人の言うことは全て信じている


たった1人を除いて


(嘘ばっかり)


「さ、食事が終わったら授業だよ

今日はテストもするからね」


「えぇ〜!?聞いてないよ先生ぇ〜!」


「言ったら意味ないよ」


「それはそうだけどさぁ…」


テストがあると知った結衣は肩をがっくしと落として、目に見えてわかるように落ち込んだ。


「やれば出来るんだから、ちゃんと勉強しようね、毎回授業中寝てるけど」


「いや、あの…えへへ」


「全く、人には向き不向きがあるからテストの点に関してはあまり言わないけど、授業は寝ずに受けなさい」


「はぁい」


授業中毎回眠ってしまう結衣は勉強が不得意というわけではないのだが、長い話を動かず座っているのが苦手でどうしても眠ってしまうのだ


「今日は『祈りの日』だから、授業は早く終わるから頑張りなさい」


「あ、そっか!今日はそんな日かぁ

分かった!今日は寝ないよ!…出来るだけ」


「そこは自信を持って」


目を逸らしながら言う結衣に男は苦笑いを浮かべた

結衣は『祈りの日』が今日だったことを思い出し、あっと言う顔をした


『祈りの日』とは

月に一度、過去に外の世界で亡くなった人々を弔うと言う意味で毎月1日に祈りの部屋という広い部屋で子供たち全員が集まり、祈りを捧げるのだ。


だが…


(毎回その度に誰かいなくなるんだよなぁ)


結衣は祈りの日による失踪のことについて疑問を浮かべた

毎度いなくなることに今は慣れてしまった子供達だが、昔は何故いなくなるのか分からず『博士』や『先生』に話を聞いていたが

皆言うことは変わらなかった


「その子達は、神聖な場所に招かれたんだよ」


その一点張りだった。

結衣は、『博士』と『先生』の言うことを信じてやまなかったため、その言葉を信じ切っていた


(まぁ平和な所ならいっか)


結衣は簡単に考え、そのまま教室へと向かっていった。

その背中をじっと見ている一つの影があった

その目は、彼女を心配しているようなそんな目だった


(あの子、大丈夫?)


心配というより、呆れのような気もするが…

気のせいだと思っておこう





⚡︎⚡︎⚡︎


授業を全て終え、祈りの時間にとなった

祈りの時間には子供たちは真っ白な服を

着て行く

祈りの部屋は施設と同じように真っ白な部屋だ。

施設の他の部屋と違うのは、飾りやドアがある部分以外の壁の継ぎ目が一切なく、飾りや窓も無い。本当に真っ白な部屋だ


「さぁ、皆。いつものように並んで

座るんだよ」


「はーい」


子供達は先生の指導を素直に聞き、いつもの並びに並んで座る

その座り方と言うのが、少し特殊だった

土下座をするようにしゃがみ込む、だが

少し違うのは、足や手を体の下にすっぽりと隠している、猫のように体を丸めて

『博士』曰く、死者を弔うのに手や足があれば悲しんでしまうかもしれないだろう?

とのことらしい


「皆、博士が来たよ」


「本当!?」


「博士!?」


その博士という人物は余程慕われているようだ


「やぁ皆、久しぶりだね」


「博士ー!」


「博士!博士!」


子供達は丸めていた体を伸ばして立ち上がり

博士の方へと一目散に駆けて行く

博士の懐に勢いよく飛び込んで行く子供達を博士と呼ばれた中年の男は子供達を優しく受け止めた


「う"っ、少し見ない間に大きくなった気がするな…年寄りにはもうキツいかな」


「まだ56でしょう、博士」


「じゃあまだ大丈夫だね!」


「ちょっと!?」


和気藹々とした雰囲気の中で博士と子供達は仲良く会話をしていた

結衣も博士の元へと駆けて行った。

というか、施設にいる子供達の殆どが博士の元へと駆けていき、博士に笑顔で接していた

博士も子供達に笑顔を向けていた


たった1人、美冬を除いて

美冬はじっと博士の方を睨みつけていた

まるで誰かの仇とでもいうかのように

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