この神聖な場所で
anot
第1話 世界
世界中で戦争が勃発し、身体に害のある電磁物質が蔓延した
救えるのは限られた人間だった
だから、まだ幼い赤子を優先して助けることにし、作られたのがこの施設
「結衣〜!何してるの?」
「ううん!なんでもない!」
施設では大勢の子供が暮らしている
この結衣と呼ばれた少女も施設で暮らしている子供の1人だ
「今日のご飯は何かな〜?」
「どうせ今日も豆のスープだよ」
「そうだよ」
「あ、おはよう流風、流衣」
流風と流衣と呼ばれた2人の少年たち
2人の顔は瓜二つで、双子だということは
明白だ
「どうせって…豆でも食べられることは
ありがたいことなんだよ?この世界じゃ」
「そうだけどさぁ…、毎日毎日これじゃあ飽きちゃうよ」
「ね〜」
施設内で作物は育てているものの
育てられる作物には限りがある
そうなると必然的に栄養価が高く、保存もきく豆が多くなってしまう
「どうかした?結衣、流風、流衣?」
「あ、先生」
『先生』と呼ばれた男は3人の元へ寄ってきた
この男は、施設にいる大人であり
彼らを育てる親代わりのような存在だ
「先生、今日のご飯はなに?」
「今日はミネストローネ」
「…肉は?」
「入ってるよ、鶏肉だけど」
「やった!早く行こうぜ!流衣!」
「うん!」
そのまま双子の弟である流衣の腕を引っ張って廊下を走っていく流風と流衣の背中を微笑ましそうに見つめる男と結衣
「あ、走ると転ぶよー!」
「大丈夫だって!」
「もぉ…」
「すっかりお姉さんになったね結衣」
「ん?」
男の方に首をやり、まだ背が届かないので
見上げるようにして男の顔を見ると
男は親のような微笑ましそうな目をしていた
親代わりとして育ててきたのだから当然だろう
「まぁ私も、もう15歳だからね!
立派なお姉ちゃんだよ!」
「そうだね、じゃあちゃんと自分の部屋も掃除しようね?」
「あぁ…えへっ」
女の子なら初潮が来た歳に
男の子なら10歳を超えたら1人部屋を
与えられる
15歳である結衣は5年前に部屋が与えられている
「ちゃ、ちゃんと最低限はしてるよ!」
「最低限の掃除だけじゃなくて、文房具とか本とかもちゃんと整頓してね。床に散らかってるよ」
「うっ…」
結衣はあまり片付けが得意ではない
使ったものを片付けるくらいはするが
物が入らなくなってしまうと、その辺りにほっぽってしまうのだ
そのせいで、床に転がっていることもよくある
「全く、少しは美冬の部屋を見習いなさい」
「いやぁ美冬の部屋は物が少なすぎるんだよ…って、あ!美冬!」
話に出てきた美冬が噂をすればと言うやつか
ちょうど前を通った。
名前を呼ばれた少女は黒い髪を靡かせながらこちらを振り向いた
「何?」
「ううん、今美冬の話しが出てたから!」
「美冬の部屋を見習って片付けなさいって
言ってるところだったんだよ」
「…そうですか。結衣、そろそろ食事の準備終わるから、早く来て」
「あ、うん!」
美冬は話は終わったと言うようにサッサと
去っていってしまった
美冬は昔からこんな感じで、あまり人と関わろうとしない。
施設ではある程度の知識をつけるため
『先生』と呼ばれる大人によって授業がある
施設にいる子供の歳にあわせて、授業時間が違うのだが、授業が終わった後の休み時間の間、他の子供達が遊んだり雑談を楽しんだりしているなか
美冬は、1人本を読んでいるかボーッとしているかが殆どだった
「もっと仲良くなりたいんだけどなぁ」
「きっと仲良くなれるよ。結衣は良い子だから」
「その言い方じゃ、美冬はいい子じゃないみたいじゃん!」
「はは、確かにそうだね」
頬を膨らませ起こったように男に文句を言う結衣に乾いた笑いを溢しながら結衣を宥める男は、美冬が去っていった方を睨みつけるように見ていた
「あぁそうだ、結衣。春に伝えておいてもらえる?前にした『健康診断』に異常が見つかったから『博士』のところに来てくれって」
「そうなの?分かった〜!」
「じゃ、食事に行っておいで
早く行かないと流風と流衣に全部
食べられるよ」
「げっ!ヤッバ!またね!先生!」
「あぁ、またね結衣」
結衣はそのまま廊下を走って去っていった
その結衣の背中を、ずっと男は見つめていた
美冬を見ていた時とは全く違った
優しい目だった
「あ!春〜!」
「結衣!やっと来たの?」
春と呼ばれた少女は今年16歳になる
結衣の一つ上だ
結衣は姉のように慕っており、春は結衣を妹のように可愛がっている
「はい、ミネストローネと鶏肉とキノコのソテー。少ないけど取っといたわよ」
「うわぁ!ありがとう〜!」
「全く、流風と流衣にも困ったものだわ
目を離したらすぐ他の子の食事も取ろうとするんだから」
「あぁ…」
流風と流衣の先程の様子と、日頃の行いを思い出し結衣は苦笑いを浮かべた
春は顔に手を当て困ったように首を傾げた
「あ、そうだ!先生が春を呼んでたよ
健康診断の結果が良くなかったんだって!」
「え?そうなの?どこが悪かったんだろう…
気をつけてるはずなのに…」
「うーん、視力とか?春はよく暗い所で
本とか呼んでるし」
「えぇ!?そうなのかな?あんまり変化は感じられないけど…」
「まぁ視力って決まったわけじゃないけどね」
「まぁそうね、とりあえず授業が終わった夜にでも行ってみるわ」
会話を終え、結衣は食事を春は食事を食べ終わり片付けをし始めた
ミネストローネは少し薄かったが、久しぶりのトマトの味に結衣は頬を緩めた
その頃、ある少女は自身の部屋で
ブツブツの何かを呟いていた
「次は春が…どうしたら…
もう直ぐあの日が来る…」
少女は何かを焦っているようで
体を掻きむしりながら呟き続けた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます