【12話】大円団?

無事に少女の魔王を倒した俺とレイアは、静まり返った魔王城を後にし、帰路へと足を進めていた。


「魔王は無事に封印することができました。

まぁ、封印というか、あまりにも大きなショックを受けてしまったようで、勝手に魔王の力を全て失ってしまったようですね」


「はぁ…。

俺の顔は魔王の力を消失させるレベルかよ…。

どういう世界なんだよ、ここは…」


異世界の冒険を振り返ってみると、俺って、実は敵モンスターを一体も倒していないんだよなぁ…。

倒したのはラスボスの魔王のみ。まぁ、倒したって言っても、テンパった顔してダメージを与え、そして、チートスキルで魔王から好かれ、そして、魔王が勝手に自滅したってことなんだが、うーむ、これは倒したと言っても良いのだろうか…。


人違いで異世界転生した勇者代行のタローは、レベルをMAXまで上げていて、めちゃめちゃ強い敵モンスターも余裕で倒していたしなぁ。どっからどう見ても、タローの方が勇者っぽいよな。


そんなことをぼんやり考えていると、レイアが珍しく真剣な表情を浮かべ、じっとこちらを見つめながら話しかけてきた。


「世界は救われました。

勇者リュートよ、本当にありがとう」


「え…? あれ…? なんか素直だな…。

どうした?」


「そうですね、魔王を倒した影響なのか、見た目が普通になったようです。

まぁ、とは言っても、私の満足する見た目には程遠いですが…」


「おい!

って、あれ? 見た目が普通…?」


「これは私の推測ですが、異世界転生時に魔王討伐を支援するための力が干渉し、顔の見た目が微妙になる魔法が付与されていたのかもしれませんね」


「なるほど…。

って、いやいや、魔王討伐を支援って…、それで俺がどれだけ苦労したか…。

そもそも、そんなことができるなら、もっと違う力をくれよ、って感じだぞ…」


異世界転生した上に顔が微妙になる魔法付与ってなんだよ…。

まぁ、しかし、変な見た目から解放されたのは正直なところ嬉しいかな。


「でも、その変な魔法が解除されたってことで良かったよ」


「そうですね、本当に見るに耐えない感じでしたからね」


「おい!」


「でも…。

あなたと、こういうやり取りができなくなったのは、少し寂しいですね…」


レイアはどこか物憂げな表情を浮かべながら微笑み、その瞳にはかすかに涙の光が宿っていた。


「え…、あ…、そうか…。

確かに、そうだよな…、ちょっと、しんみりしてしまうな…」


なんだなんだ?

レイアのやつ、なんか珍しくしおらしい雰囲気になっているぞ…。

あれ、これってもしかして、俺のことが…。


「だって、ちょうどいいストレス解消だったんですもの…」


「おい! こら!

そういうのは、絶対ダメだぞ!」


くそっ、ほんの少しでも期待した俺が間違いだった!そうだよな、結局こいつはいつも通りのやつだよな…!


「さてこれからどうするかな?

何をやるにせよ、ようやく普通の扱いを受けられるので良かったよ!」


「いえ、そういうほど甘い話ではありません、むしろ、これからが大変ですよ」


レイアが「ふふふ」と含み笑いを浮かべながら、楽しげに語り始めた。


「え、そうなの?」


「はい、魔王討伐を達成したことにより、勇者の存在価値はなくなってしまいました」


「いや、いいよ、勇者の方が逆にひどい扱いだったし」


「勇者ではなくなった、つまり、今後はおそらく馬車馬のように働かされるので、過労死しないよう気をつけてください」


「まじかよ!

そもそも過労死で転生されたのに…!

異世界でも過労死したら、たまったもんじゃないな…」




**********




「これで良かったのでしょうか?」


先ほどのレイアと、年配の男性の会話。

どうやら、その年配の男性はレイアの上司にあたる人物らしい。


「良いに決まっているだろう!

そもそも、魔王を倒したから、もうこのくだりは必要ないじゃろ!」


「いえ、やっぱりこの流れ、あった方がいいですよ、絶対」


「何なんだ、その自信…」


「いや、最後だし、寂しいかなーって♡」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者リュートが転生予定なのに、人違いでタローがやってきた 桃鬼之人 @toukikonohito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ