単推しなどありえません、カプ推しです!



 私の名前は山本 葉月はづき。二ツ橋大学の商学部に通う三年生。

 実家は都内のため毎朝電車で大学に通っている。うちの大学は、かの有名な誰もが認める日本最高峰の大学ほどではないが、創立はあの大学と同じ年の歴史ある国立大学だ。


 学部も政治・経済や法学など、ちょっとお硬い学部が多い……が、お硬いとは言え通っているのはハタチそこそこの若者がほとんど……なわけで。勉学に励んでいる時間以外は至って普通の大学生である。


 よって、アイドルの追っかけもすれば、推しを眺めて色々と妄想したりも……する。

 その推しがモニター越しじゃなくてリアルに見られちゃったりした日になんかはもう。


(ああ……今日もいる……絵馬の君……)


 うちの大学は東京といえど郊外の方にあるので通学に時間がかかる。まぁ、都心に向っていくよりかは混んでいないので助かるが。

 大学はひとコマ目から授業があるとは限らないので今まで気が付かなかったが、あさイチの講義に間に合うように電車に乗った際、前から二両目に絵馬の彼が乗っていることに気がついた。


 私は三年生だが、彼は今年の一月に合格祈願のお守りを貰っていたことを考えると入学したばかりの一年生だ。学部が違うこともあり、名前など知る由もない。


 なので彼のことは『絵馬の君』と呼んでいる。


 あの伯父の神社での出来事で、俳優の二階堂ヒカルのファンになってしまい色々彼のことを調べたが、まさか彼の片割れが同じ大学に通っているなど想像できるはずもない。大学構内のカフェではじめて絵馬の君を見かけた時は、それはもう脳内はお祭り状態だった。友だちの志保に精神の正常さを疑われるくらいには。


 絵馬の君は私よりも自宅が遠いらしく、私が電車に乗車する時にはすでに電車の座席に座っている。

 大学の最寄り駅につくまでの間、リアルに絵馬の君を観察することができるので、いけないとは思いつつも、つい盗み見てしまう。二階堂ヒカルのビジュの良さに、はじめはそこまで絵馬の君に目を向けていなかったが、よくよく見ると絵馬の君も中々に綺麗な顔をしている。


 顔は小さいし、髪型はいわゆるツーブロックというやつだがノーセットのサラサラヘア。目元はすっと通っていて、女性的ではないがどちらかと言うと中性的な方だろう。色白で小さい形の良い口がちょこんとついている様はあれだ、雛人形のお内裏様みたい。


(……和美人)


 背丈は私より10センチは高そうだから(私は女子の中では比較的大きな方だ)決して小さくはない。でも二階堂ヒカルは公式情報では182センチとのことだから、並べば絵馬の君は華奢なのもあってひと回り小さく見えるし二人並んだ時のビジュは最高だ。並んでいる画を見たのは神社での一回限りであとはもうそ……想像の中でだが。


 絵馬の君は遭遇する時はいつも前から二両目の入口近くの座席に座っている。

 あの黒猫の縫いぐるみの付いたディバックを前に抱え、大概スマートフォンを眺めているのだ。


(あの縫いぐるみ、二階堂ヒカルの実家の猫なのかなぁー! そうだったら可愛いなぁっ!)


 絵馬の君は本当にお内裏様みたいな顔で、柔和……というよりいつもキリリとしている。

 二階堂ヒカルももちろん格好いいけれど、どちらかと言えば優しげな顔立ちだから、隣に立ったら二人のギャップが絵になるんだろうなぁ……なんて。


 絵馬の君の斜め向かいのドア付近に立っている私は平静を装いながらも脳内は朝から妄想全開だ。


 楽しい時間を有難う! 絵馬の君!


 あと五分ほどで大学の最寄り駅に着く。ああ、楽しい時間ももう少しか。

 ギリギリまで彼の姿を目に焼き付けておこう。


 そう思ってもう一度絵馬の君に視線をやった刹那、絵馬の君はスマートフォンを見ながらそのすました顔を崩して柔らかく笑った。


(んぉ)


 どちらかと言えばいつもクールなその顔が、見たことがないくらいへにゃりと歪んで、甘く幸せで溢れている。

 ……かと思いきや、次の瞬間、口元を抑えて顔を真っ赤に染め上げた。


 スマホから目を離して一旦膝に置き、冷静を装うためか小さく深呼吸を繰り返している。


(――――なになになに!? 一体何が書いてあったのよぉぉぉぉっ!!)


 思わず自分の口から小さく「うっ」と声が漏れて、近くに立っていたサラリーマンがぎょっとした顔でこちらを見た。


 ――失敬。すまぬ。


 絵馬の君は膝においたスマホをもう一度ノロノロと持ち上げると、なにか短く返信しているようだ。そしてそのまま上着のポケットにスマホをしまう。


 周りの人は気がついていないようだが、赤くなった顔はまだ隠せていない。


 程なくして最寄り駅に着いたアナウンスがなって、彼も私も席を立った。


 私の少し前を絵馬の君が歩く。歩く振動に合わせて、ディバックに付いた黒猫の縫いぐるみが左右に大きく揺れた。


(あ)


 縫いぐるみの下に見え隠れしたのは、あの日二階堂ヒカルが買った青い御守り――




「――――」




 空には、春らしい青空が広がっている。


 山本 葉月、20歳。


 二階堂ヒカルと絵馬の君、カプで推します!! と空に誓った瞬間であった。



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週末だけの巫女バイトは煩悩しかない。 🐺東雲 晴加🌞 @shinonome-h

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