推しが増えて現実の世界に現れて困っています。
昼食後の時間というのはなんでこんなに眠気を誘うんだろう。いや、血糖値の急激な変化によるものなのは理解しているが、夕飯より明らかに昼食後のほうが眠い気がするのは何故。
我が大学は歴史ある大学のため、有名ではあるが建物はお世辞にも新しいとは言えない。だけれどもその歴史の刻まれた学舎や建物が他の学校には出ない雰囲気を醸し出していていいエッセンスになっている。大学に併設されているカフェテラスはその学校の雰囲気も相まって、適度な日差しと静けさで心地よいからよけいだ。
「お待たせー! あ、今月号のガ・ヴィンチ買ったの?」
友人の志保がテーブルに広げて見ていたエンタメ雑誌を見て言う。
「
『v.i.e』というのは、私が推している二人組のアイドルユニットだ。
行けるコンサートには大体行っているし、会場でグッズを買うことが以前からの私の楽しみの一つである。
今月号のガ・ヴィンチには確かにv.i.eも載っていた。
けれど実は今回のお目当てはそれではない。
「うっわ、今回の特集、二階堂ヒカルじゃん。かっこよ~~! なんかズルいよねこの顔面!」
あれ、葉月ちゃん二階堂ヒカル好きだったけ? と志保に言われて「……うん、まあ最近ね」と曖昧に答えた。
――なんて。
少しだけね、みたいに曖昧に答えたが、実は最近彼にドン
きっかけはアレだ。今年の一月に伯父に頼まれてやった巫女のバイト。
ヒマで殆ど人も来ず、楽で仕方がなかったが退屈すぎたあのバイト。そこに彼がお忍びで来たことで彼に興味が湧いた。
ただ参拝客として来ただけならばこんなに気にはならなかったであろう。ただ、やって来た彼はもう一人の男の子と一緒にやって来て、仲良く参拝して帰っていった。
(――どう考えてもあの二人付き合ってるよね)
二階堂ヒカルが同性愛者だという事は聞いたことがない。女優と噂になったことはあったみたいだがどれもガセネタだったようだ。今のところ清廉潔白を保っている。
けれど私が見た彼らはどう見てもお付き合いしてる二人のそれだった。
バイト後、名前と顔を知ってはいたが、今までそんなに興味が無かった二階堂ヒカルの名を検索し、出演作品などを数本観て……沼ってしまった。
今では最推しだったv.i.eに並ぶくらいにハマってしまっている。
二階堂ヒカルは身長180センチ超えの今年二十一歳。
一番上のお兄さんはファッションブランド『K』の代表デザイナーで、三番目のお兄さんが作詞作曲家のkoo、四姉弟の末っ子でお祖父ちゃんがフランス人のクォーターなんだとか。
何その設定、ズルすぎない?
尚且つ年下の男の子と付き合ってるとか流行りのBLかよ!? そんな萌設定現実にある!?
テレビのモニターで見る彼は大人の男性の雰囲気を醸し出しているが、末っ子ならではの甘えたような可愛げも時々不意に出してきたりして、相当にズルい。けしからん。
そう言えは神社で見かけた時もあの男の子に甘えた口調で喋っていた気がする。
この事実を公表すれば、大スクープ間違いなしであるが、……こんな美味しい展開、しかも私しか知らないであろうこの事実を、人に言ってしまうのはもったいなさ過ぎるっっ!!
私はあの日見たことを胸に一人しまい、影から彼をそっと応援することに決めた。
それがオタ活の矜持……!!
「葉月ちゃ~ん? おーい、戻ってきて~?」
気がついたら握りこぶしを握って立っていたらしい。私は慌てて手をおろして席に座った。
ふと目線を前に向けると、自分達の前のテーブルに男子学生が座った。彼に目が行ったことに特に理由はない。ないのだけれど――。
サラサラの黒髪、真面目そうな印象の、どちらかと言えばそんなに目立たない感じの普通の男の子。けれどなんだか既視感があって、彼の下ろしたディバックに目をやり、カバンに付いた黒猫の縫いぐるみを見て――
「あっ」
思わず声を上げた。
私の声に隣りにいた志保とあの男の子が驚いてこちらを見る。私は自分の口を抑えるとぱっと彼から目を逸らした。
(う、嘘ウソうそぉ……!? あの時のあの子ォ!? なんでなんで!?)
心臓がバクバクと音を立てて変な汗が吹き出た。
あの猫の縫いぐるみ、間違いない。絵馬の彼だ。
彼はディバックからポケット六法全書とテキストを取り出すと静かに自習をし始めた。
(ポケット六法……法学部の学生か)
雑誌を読むふりをしながらちらりと絵馬の彼を盗み見る。
あの時と違い今日はマスクをしていない。
あの時も日本人形みたいな子だな、と思ったけれど、マスクオフの素顔は口が小さくて色白で、ますます日本人形のようだなと思った。
(今ここにいるってことは、あの時の彼のあげたお守り効いたんだぁ……)
なんだかじ~んとする。合格は絵馬の彼の実力だとは思うが、自分も彼の合格に一役買ったと思うとなんだか妙な感動があった。
赤くなったり青くなったり、何故か急に目をうるませる私に怪訝な顔をする志保を置き去りに、私は手元のガ・ヴィンチの二階堂ヒカルの特集記事に目をやった。
そこには二階堂ヒカルのオフショット風の写真とともに休日の過ごし方についてのインタビューが掲載されている。
(……なになに? 『今全然休みが取れていないのですが、空いた時間に友人とオンラインで通話したり、実家に行って飼い猫と戯れたりして癒やされてます』……)
『友人はまだ学生で勉強中の事も多いのですが、嫌な顔せず付き合ってくれるんですよ』
――それが思いの外息抜きになってます……だとぉぉぉ!?
……それって、友人……と言うのは建前で、相手は絵馬の彼……って事だよねぇ!?
インタビュー記事を見ると、そこに実家にいるという飼い猫の写真も掲載されていた。その猫は黒猫で――――
「うあぁぁっ!!」
再び叫んだ私に隣の志保がビクッと肩を震わせた。
「ちょ……葉月ちゃん?? ほ、本当に大丈夫??」
心配してくれる志保をよそに、私は鼻血が出そうになりながら両手で顔面を押さえ、
「と、尊ぃ……一生推すゥ……」
と呟いた。
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