獣の舞踏
くれは
倒れるまで
踵を持ち上げてつま先で土を握るように立つ。それがこの踊りの基本の形。
祭りの夜、わたしは舞い手として広場の中央に立つ。火の粉が風に乗って宙に舞う一瞬一瞬をまるで連続した絵のように感じ取っている。冷えた夜風が孕む火の気配。その空気の動き、輝く炎の煌めき。
舞い上がる土埃がざらりとふくらはぎに絡む。
太鼓の音が空気を震わせる。わたしは膝を曲げる。身を低くする。草むらに潜む獣のように。つま先立ちのままゆっくりと動き、身をかがめて周囲を伺う。獲物を探す捕食者のように。
笛の音が空気を切り裂く。それに合わせて膝と背中をぴんと伸ばす。きょろきょろと周囲を見回す。草を食む獣のように。そして、飛び上がる。走り出す。
これは獣たちの動きなのだと、村の者なら誰でも知っている。今わたしは追われる獣。そして、それを追う獣でもある。体全体を柔らかく使い、つま先立ちだけで、獣たちの様子を表現する。
激しく動いたかと思えば、急に止まり静かに周囲を伺う。篝火の火がわたしの姿を照らし、地面に落ちる深い影を作る。そしてこの踊りは生きることと死ぬことでもある。わたしたちが生きる世界そのものでもある。
「ほうら、もっとだ、もっと逃げろ」
合いの手が入ると、村人たちは手を叩き出す。太鼓と笛と手拍子のリズムが激しくなる。わたしはそれから逃げるように跳ね、広場をぐるりと駆ける。
「噛め! 噛め! 噛め!」
次の合いの手に応えるように、獣を追う獣の動きに切り替える。大股で、人垣ぎりぎりまで迫れば、人々は笑いながら後ずさる。
わたしの鼓動が手拍子と一体化する。つま先が、大地を感じる。わたしは今、たくさんの命を体に宿している。呼吸するたびに頭はぼんやりとし、逆に感覚は研ぎ澄まされてゆく。何も考えなくてももう、わたしの体は獣の動きをちゃんとやってみせる。
逃げる、追う、逃げる、追う。その繰り返しの中でわたしは踊りそのものになってゆく。つま先から深く、大地と繋がっている。それは命の鼓動そのものだった。
いつまで? そう、倒れるまで。
獣のように、命を燃やすのだ。
獣の舞踏 くれは @kurehaa
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