009

 リビングドールの出る層を抜け次の魔物が出る層までやって来るとそこには半透明な杖を持ったレイスがいてこちらに魔法を撃ってきた。

 前にいたテミルが盾で魔法を防ぎ、その間に魔法を撃ち返してこのワイトという名前の魔物を倒す。どうやらここからは敵も本格的に遠距離攻撃をしてくるらしい。

 モンスター誘引の効果か先を歩くテミルばかり狙われるし、魔法もそれほど早くは連射して来ないので見ている限りではリビングドールの方が大変だった様に見える。


「テミル、盾で受けているから大丈夫だと思うけど魔法は問題ない?」


「はい、リビングドールの攻撃に比べれば衝撃はありますけど、このくらいなら身体に受けてもリジェネイションのスキルもあるので大丈夫だと思います!」


 魔力量倍化も取りましたから!と元気に返してくれる彼女はここに来るまでに反応倍化の他にミズナとデボボに言われて状態異常耐性Lv1、魔力量倍化Lv4そして身体強化使用可能というボーナスを取得していた。

 武術家という職業についていれば覚える必要が無いはずの身体強化使用可能というボーナスをテミルが取っている理由は、武術家から他の職業に転職したからだ。

 テミルの第2職業から第6職業はすべてがレベル50を超えて、2次職と呼ばれる強力な職業へと新しく転職できるようになっていた。

 戦士から盾士と騎士へ、聖職者から神官へ、魔法使いと武術家からドルイドへ、そして最後に戦士と聖職者から聖騎士へと転職した。

 レベルが1に戻った事でステータスが下がってしまっただろうけど、魔法を盾で受けた感想を聞くに問題は無さそうだ。

 頑丈倍化をレベル10まで取った彼女にとってこの辺の魔物はまだまだ楽勝なのかも?

 聖騎士に転職したことで使える様になったリジェネイションは魔力を使って怪我が回復し続けるというスキルなのでヒールを使う必要すら無いのかも知れない。

 2次職になると必要経験値が2倍になるとミズナは言っていたけど。1匹で1レベル上がっていたという彼女が、2匹で1レベルになった所で何の違いがあるのだろうか?

 ちなみに僕の2次職はまだレベル48だ。もうすぐ50にはなれるけど、多分今日中にはなれないと思う。精霊術師はレベル50になっているけど、残念ながら2次職は無いようで転職の一覧を見ても何も変わっていなかった。

 それでもレベルは上がっているので、新しくモンスター忌避というモンスター誘引の逆の効果を持つボーナスと、状態異常耐性Lv1を取得した。

 状態異常耐性はテミルも取っていたけど、ミズナ曰くこの先で必要になるらしい。この層は特に問題も無く進めているので直ぐに行くことになりそうだ。

 ワイトは何故か皮膚も甲殻も無いのに硬皮を落とす。近付いて来ないので拾うのが面倒だけどお金稼ぎとしては悪くない場所だと思う。

 もっとも、テミルの様に魔法を防いでくれる味方がいないと複数の魔法を避けながら、魔法を撃ち返さないといけないので一人だとなかなか難しそうだ。


 早々にワイトのいる層を通り過ぎた先には見覚えのある雑草エリアが広がっていた。


「テミルにはここで少し歩く度にタウントのスキルを使ってもらうよ。

 ここの魔物は自分からは襲って来ないからスキルを使って集めるんだ。進みすぎると囲まれやすくなるから気を付けて。

 クルトは撃ち漏らしとテミルの後ろから来そうなやつを倒してね」


「まぁ重量があるくらいでリビングドールと大して変わらんから気楽に行くと良い。

 ああ、あとうるさいからそれだけは我慢するしかないの」


 ミズナ達から注意を聞いて、少し歩いてからテミルがタウントを使うと、土から出て来た植物が絶叫を上げてこちらの鼓膜を攻撃してくる。

 タウントは一瞬だけ周囲の注意を引くだけのスキルだけど、土に埋まって寝ているマンドラゴラにはこれが攻撃として認識された様だ。

 6体のマンドラゴラを順番に攻撃して数を減らしていると、ミズナのウォータートルネードがテミルを中心に魔物を蹴散らした。

 見ているとテミルが巻き込まれているようで怖いけど、別に本物の水流に巻き込まれているわけじゃない。水属性の魔力が渦を作りそれに触れた魔物にダメージが入るらしい。

 それに範囲魔法はパーティメンバーを攻撃しないという不思議な効果があるので味方を気にせずに撃てる。

 ただしパーティメンバー以外なら、人間だろうと馬車の馬だろうと攻撃してしまうので撃つ場所には注意が必要だ。

 体に傷は付かないのに生命力が低いとあっと言う間に死んでしまうらしく、殺してしまえば殺人者として生きて行くしかない。

 それなりに大きな街なら神殿に遺体を持って行けば復活させる事も出来るけど、高額な寄付金は必要だし、罪を償う事は変わらないので本当に気を付ける必要がある。


 テミルの周りに落ちている薬草を集め、先へと進んでタウントを使う。再び鳴り響く絶叫に耐えてから数を減らし始める。

 スクリームキャロットの叫び声とは違い、本来はこの絶叫には硬直という状態異常が付与されている。

 さっき取った状態異常耐性が無ければ数秒の間行動不能になるのだけど、絶叫の間は結局耐えていないといけないから必要だったのかは分からない。それよりは耳栓を買って来るべきだったね。


「絶叫がうるさすぎるから耳栓を作りたいんだ、ちょっと待ってくれるかな?」


「あ、私もお願いします」


 リビングドールが落とした麻布を少しナイフで切り、水で湿しめらせて耳に詰める。効果は低そうだけどしゃべった感じだと多少のは効果がありそうだ。

 実戦で使った結果は、耳が痛くなるほどではなくなったので顔をしかめるだけで良くなった。

 前は耳を塞ぎたくなるほどだったから、両手に盾を持っていたテミルは大変だっただろう。


 何度かタウントで集めて魔物を一掃していると地面に動かないマンドラゴラが残った。

 頭の葉っぱが無くなっている以外は本当にマンドラゴラそっくりで、今にも動き出しそうだ。

 この人の頭ほどもある大きな根っこは錬金術で上級治療薬の素材になる他。粉にして飲めば病気が早く治ったり、二日酔いに効いたり、胃腸の改善や美容にも良いと何にでも効果があるので万能薬なんて呼ばれている。

 その分値段は高くて売れば銀貨数枚にもなる。

 大きいので粉にするのなら1回あたりの値段は安くなるけど、上級治療薬はこの大きな根っこを丸々使うので価格はかなり高くなる。

 大成功なんてしたら金貨1枚を超えるので錬金職人には大きな儲けとなる。ただし失敗が続けば当然損失が大きくなるので、運が悪ければ店を畳む職人も出て来る。

 高い商品だからそんなにすぐ売れるわけじゃないしね。


「マンドラゴラの根…あの、上級治療薬の大成功品が出来たら売っていただけませんか!?

 お金は直ぐには払えませんが必ず返しますから!」


 必死なテミルの様子に一瞬気圧される。たしか彼女の両親が大怪我をしたらしいからそのためだろう。


「ワシからも頼む。出来ればしばらくマンドラゴラを狩って上級治療薬を作って欲しいのだ」


「まぁ良いんじゃない?しばらくレベルを上げてから先へ進むのと変わらないし、テミルには壁役として頑張って体で返してもらえばいいよ。

 まぁ先へ進んでお金を貯めて買ってもいいと思うけどね」


 申し訳なさそうに頼んで来るテミルとデボボと違ってミズナは妙に笑顔で進めてくる。いつもならどんどん先へ進もうとするのに。


「そんなこと言って、戦わなくてもいいマンドラゴラの対策を取らせたって事は元からそのつもりなんでしょ。

 あと、マンドラゴラの根は家の店でも納品が遅れているから、この街で買うのは難しいかも。自分達で集めるしかないね」


「じゃあ!」


「うん、しばらくマンドラゴラを倒そう。レアドロップだから何体倒せば良いのか分からないけど、あの倒し方ならそんなにかからないんじゃないかな?」


「良かった、これからもっと強い魔物の領域へ行くなら街を離れないといけなかったからね。パーティの憂いは無くしておきたかったんだ。

 あと、クルトの範囲魔法の練習にも丁度よさそうだしね」


「ありがとうございます!このご恩は必ずお返ししますから!」


「そういうのは終わってからにしよう?まだ何もしてないから」


「いえ!他にも色々とありますから!」


 ぺこぺこと頭を下げるテミルを止めて狩りを再開ために背中を押す。

 その日は結局2個の根っこを持ち帰ったけど、大成功品は出来なかった。



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テミル009話終了時ステータス


J1.精霊術師Lv60→80

J1.戦士Lv52→J2.盾士Lv0→Lv45

J1.聖職者Lv51→J2.神官Lv0→Lv45

J1.武術家Lv51→J2.ドルイドLv0→Lv45

J1.魔法使いLv50→J2.聖騎士Lv0→Lv45

J1.吟遊詩人Lv50→J2.騎士Lv0→Lv45


B.生命力倍化Lv10

B.魔力量倍化Lv10

B.筋力倍化Lv10

B.体力倍化Lv10

B.頑丈倍化Lv10

B.反応倍化Lv1

B.必要経験値減少Lv10

B.第6職業

B.アイテムボックス

B.モンスター誘引

B.タウント使用可能

B.身体強化使用可能

B.状態異常耐性Lv10


使用可能スキル:使用可能スキル:ヒーリングエリア、キュアオール、パラライズ、ローズバインド、インパクト、リジェネイション、アイテムボックス、タウント、身体強化

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2025年1月11日 00:00
2025年1月12日 00:00

精霊達は効率厨になっていた、ただし長命種ゆえに気は長い ガラゴス @qrim

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