第7話

 空戦の後、僕らはイスラエル軍の人々に会食に誘われた。戦闘の真っ最中だったので簡易な食品のみが出されたが、彼らは彼らなりに僕達を歓待しようとしてくれているのが理解できた。

「ミス。あなたはF―100スーパーセイバーでMiGを撃墜したことがあると聞いた」

 そう英語で話しかけられ、彼女はこう応ずる。

「MiG三機。輸送ヘリ四機が公認スコアとなっています」

 彼女の答えを聞いて、イスラエル軍人らは拍手を送る。彼女は表情一つ変えず、糧食の付属品の―不味いことで有名な―珈琲を飲む。

 この時、机の端にいた一人のイスラエル軍人が、少しトーンの違う言葉を彼女に向けた。

「米空軍のF―100スーパーセイバーで撃墜出来なかったのに、日本人がそれをできたと言うのは、私には信じ難い」

 僕はその言葉を聞いて、周りの軍人の誰かが彼の発言を制止するのではないかと期待したが、実際はそうならなかった。

 僕が何かを発しようとした時、彼女はそれを制止し、淡々と返事をする。

「――もし仮に、貴方がたイスラエル軍人が、過去の第一次から第三次に至るまでのイスラエルの輝かしい勝利を疑われたとして、他でもない歴史的事実のみがその疑念を晴らすことでしょう。我々にしてみても同じことです。我々は真珠湾パールハーバーをやり、ラバウルを戦い抜いた。ベトナムでも我々操縦士は真剣に戦った。ただそれだけのことです」

「しかし、諸君らは敗北した」

 その発言が差し込まれると、イスラエル軍人の一部はこらえるようなくぐもった笑い声を発した。しかし、彼女の表情は変わらない。

「歴史上、無敗だった国家はどこにも存在致しません。我々がそうであったように、皆さんの祖国についてもそれは同一のことが言えます」

 その言葉を聞いて、彼らはようやく減らず口を叩くのをやめた。――現在のイスラエル国家は存亡の危機に晒され、戦術核兵器使用の噂すら立っている状況にあるからだ。

「やめましょう。私達はあなた達と肩を並べて戦うためにここに来た。お互いの背中を撃ち合うために来たわけではない」

 この言葉をもって、その場は解散となった。

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2025年1月10日 11:00
2025年1月11日 11:00
2025年1月12日 11:00

月の影 文乃綴 @AkitaModame

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