麺のないラーメン

風馬

第1話

タバコ吸いたいな。

ビール飲みたいな。

人生気ままに行きたいものだ。

説にそう思う。

しかし…。


私は、毎日酒を飲み、タバコを吸っていた。

当然、酒は肝臓を傷め付け、タバコは肺を黒ずくめにした。

異変は血液に発生した。

気にしてない…と言えば嘘になる。

しかし、異変は肝硬変に変わった。

致命的だった。


私は、医者に縋った。

健康な肝臓にして欲しい。と。


意外にも医者は快く返事を出した。

「いやあ、なんというか、君の肝臓を再建するのは、まあ、庭の雑草を抜くくらい簡単ですよ!」

「本当ですか?」

「もちろん。まあ、あれですね。私が神に選ばれた医者だからです。」


私は何がなんだか分からなかったが、嬉しくなって手放しで喜んだ。

そして手術。

結果は良好だった。


これで浴びるように酒が飲める…。


退院…私は真っ先にビールを飲み干した。

美味い。

入院中は1滴も飲めなかったから尚更だ。

これで以前の生活に逆戻り。

酒とタバコの毎日。


術後1年ぐらいだっただろうか。

咳が出始めた。

ちょっと気になったので、病院に行ってみると…

「肺がんですね。」

あっさりと宣告された。

たった1年で…。


私は懲りずに医者に縋りついた。

健康な肺を移植してもらうため…。

今回も、医者は快諾してくれた。


「いやあ、君は本当に私の腕を信用してるねぇ。素晴らしいことだ!」

「先生、お願いします。」

「安心したまえ。私の手術成功率は100%、ただし自己申告だがね!」


そして手術の成功。

退院後、すぐさまタバコに火をつける。

フーッ!と息を吐く。

白い煙が吐き出される。

旨い。

この為に生きてるんだよな。


全く。

そして、生活は元通りに。

肝臓と肺を交換したおかげで異常は見当たらない。


そして、20年目の春。

再び体に異変が起きた。

胸が激しく痛い。

直ぐに病院に飛び込んだ。

緊急手術。

手遅れと言う3文字が脳裏に過ぎる。

直ぐに、肝臓と肺の同時移植手術。


私は死ななかった。

そして、退院した。


無論、いつものようにタバコを買い求め、そして口に咥える。

火を点けて、煙を吸うと突然むせた。

なぜだろう。

私は吸うのを躊躇し、タバコを吸うのを止めることにした。


夜、私は酒場に行った。

ビールを注文する。

程なく冷たいビールが手元に届く。

ジョッキを口に運び、そして、口に含む。


苦い。

なんていう苦さだ。

とてもじゃないが飲めない。

どういうことだ、タバコも…そして酒も体が受け付けない。

なぜだ…。


次の日私は病院に行った。


「どこかに異変でも…?」

そう言って医者はにこやかに対応する。


「別に異変と言うわけではないのですが、酒と…タバコが…」

「酒とタバコがどうかしましたか?」

「いや、飲めないし…吸えないし…」


医者は何やらメモを取り出しながら微笑んだ。

「いやあ、それは素晴らしい。実に素晴らしい!手術の大成功だ!」

「へ?」

「まあ、説明しますよ。今回、肺と肝臓の両方の手術をしましたが、実は、あれは君の肺と肝臓なんですよ。」

「どういうことですか?」


医者は笑みを浮かべてこう続けた。

「私の特別技術でね、20年かけて元の細胞から君の肺と肝臓を再生させておいたんだよ。」

「再生させた?」

「そう、純粋無垢な状態に戻したんだ。要は、初期設定にリセットってわけさ。」


私は呆然とした。

「じゃあ、酒とタバコが…?」

「いやいや、それが面白いことにね、再生した臓器が君の脳に『酒とタバコはダメだ』って教え込んでくれたんだよ。」


医者はウィンクしながら言った。

「これで長生き間違いなし!私って天才だろ?」


おいおい、酒もタバコも無い人生なんて…。

まるで、麺の無いラーメンだよ。


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麺のないラーメン 風馬 @pervect0731

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