王子の功績

「ガッハッハッハッ! やるではないか、ワシのせがれは!」



 高らかに笑い声が響く玉座の間。


 声の主は出張から戻って来られた魔王様。


 あの出来事があってから、数日後の事です。



「は、はい。それは見事な初陣・・でございました……」



「小国とは言え、まさか一人で国を平らげてしまうとはな!」



「はい。『訓練の成果の実感を得たい』と申されまして、一人でかの国に赴き、それはもう見事な働きぶりでして」



 ちなみに、私は魔王様に対して、嘘の報告を行っている。


 セリオ様がやった事は全部伏せて、“私”がやった事をセリオ様がやった事にしているのですから。



「必死に足掻く騎士団を蹂躙し、なけなしの城門を打ち砕き、悲鳴を上げて泣き叫ぶ姫を強掠して、そこで敢え無く全面降伏と相成りました」



「お~、見事見事! 実に頼もしい事だ!」



「私が止めていなければ、国を丸ごと消し飛ばしかねませんでしたが、まあ、『恐れをなして降伏してきたのですし、ここらでお開きにしましょう』と宥めるのに大変でしたが」



「ご苦労であった、ディアコン。いささか頼りない倅かと思っていたが、お前に任せて正解であった! よくぞここまで鍛え上げた」



「恐縮でございます……」



 魔王様、大笑いしておられますが、申し訳ございません。


 あなたの息子、前のまんまです。


 超が付くほどのボンボンで、とんでもないお人好し。


 礼儀正しく、あの体の半分は優しさで出来ております。


 ちなみに、あの国が我らに降伏してきたのは本当の事。


 あの後、どういうわけか、あの国は全面降伏を申し出てきました。


 まあ、不意討ち的に攻撃されて国が半壊し、そうかと思えば、誘拐した姫を何事もなく返し、それどころか町も城も元通りにして、死者まで復活させる。


 文字通り、“元に戻してしまった”セリオ様の存在が、不気味極まるのでしょう。



「訳が分からん。取りあえず降伏しとこう」



 これがかの国の結論だったというわけだ。


 それと、あの攫ってきた姫君だが、どうやらセリオ様にお熱らしい。


 召使いでもいいからセリオ様の側仕えがしたい、と提案があった。


 吊り橋効果ってすごいな~、と呆れる感想を得ただけだ。



「勘違いするな、小娘。貴様程度がセリオ様のお側にはべるなど、百年早いわ!」



 こう言って、私がちゃんと断っておいた。


 もし、招こうものなら、召使いではなく、“異国の姫を客人としてお出迎え”しかねませんからな、あのボンボンでは。


 しかし、魔王様の脳内では、『頼りなかった息子が家臣の訓練を受けて一変。悪逆非道、冷酷無比な魔界の王子へと成長し、慣らし運転で国を一つ平らげた』という事になっている。


 私、何もしてないんですけどね、教育に関して。


 とはいえ、国一つをわずか一日で心服・・させたのは事実ですから、これは王子の功績です。間違いない。


 “私以外の全員”が勘違いしているだけですけどね、はい。



(魔王様は成長していない息子の成長を喜び、セリオ様は困っている人を助けただけで悪逆非道にされ、あの国の連中は魔界一のお人好しを“とにかくヤベー奴”と誤解し、絶妙なバランスの上で丸く収まってしまっている)



 全体像を把握しているのは、あろうことか私だけ。


 あ、胃が痛い。引退したい。



「ディアコン、お前の教育のおかげだ! 今しばらく倅の面倒を見てやってくれ! ワシが引退して、魔王の地位を譲るまでな!」



 さすがは魔王様。


 こちらがされて嫌な事を、平然と申し付けて来られる。


 胃が痺れる、楽隠居に憧れる~。



(ああ、私の平穏の日々はどこへ? あのボンボン王子をガチで修正しないと、終わらないの、これ?)



 王子の教育係として、頭と意を痛める日が続きそうです。


 愚痴を聞いてくれて、正直すまんかった。


 こうでもしないと、私の精神が崩壊しそうだったんでな。


 かくして、何の問題も解決しないまま、王子の養育係として、私の悩める日々はしばらく続く。



               ~ 終 ~




******************************


あとがき



勢いで書いてしまった作品です。


全方位で誤魔化しながら、アホ(単にお人好し)な魔界の王子を矯正する執事のお話でした。


ある意味で天然たらしな王子様を、どうにか悪逆非道な暴君へと変えよう頑張る。


そんな悩める老紳士の執事。頑張れ!


気が向いたら長編化するかも。

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魔界王子の教育係は今日も悩ましい 夢神 蒼茫 @neginegigunsou

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