【初夢シリーズ】薬守人

茶ヤマ

こんな夢を見た。


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戦で足を怪我し、上手く動かなくなったが、仕事をしなくては幼い妹を養えない。

なので都の大路へやってきたところ、何故か役人に連行され宮殿へつれられた。


薬壺を守り、世話をして欲しい。


時の帝にそう頼まれた。

冗談じゃない、何故自分がそのような、よくわからない仕事に。

と思ったが、帝に逆らう言葉を口にできるわけもなく、ただ無言でうなずいた。


いざ、その薬壺がある部屋に行ってみると、カナリヤが一羽いるきりだった。

この部屋で寝泊まりして欲しいと言われ、安堵する。

この世話をすればよいのか、楽な仕事ではないか。


最初は世話に慣れていなかったために、カナリヤの方も警戒したが、10日、15日と過ぎると、世話も慣れてくるし、カナリヤも懐いてくれた。


カナリヤの世話だけで、衣食住の心配をせずとも良いこの待遇、妹もここで一緒に暮らせないだろうか。

役人に幾度か聞いてみたが、それは駄目だと断られ続けた。

妹の方には、それ相当の生活費を支払ったと言う。


なぜ、そんな破格の対応をしてくれるのか。

なぜ、このカナリヤが薬壺なのか。

特別な何かで、存在を知られてはいけないものなのかもしれない、と考えた時、それでは自分はどうなるのだろう、と思いぞっとした。


この仕事はいつまで続けるのか、と尋ねると、長くて3年だと言う。


3年。


妹への生活費は支払ってくれているという言葉を信じよう。

その後の自分の処遇は考えないようにした。


カナリヤのいる部屋の他、両隣の空き室は入っても良いと言われていた。

右隣の部屋は、首輪が入っている小さな檻がある部屋で、その他、小物もそれなりにあったが、何故か居心地悪く感じ一度見に行ったきり入っていない。


左隣の部屋は、一言で言うと物置だった。いろいろなものが雑多に詰め込まれている。

暇をつぶす物を探すならこっちだな、と度々その部屋に入り物色していたらば、ある時一本の笛(てき)を見つけた。


埃を払い表面を拭いてみると、少々古いが十分に楽器として使える。

知っている数曲を奏でてみる。

お世辞にも上手い演奏ではない、音もかすれている。

しかし、手慰みにするには良いな、一応、使用しても良いか、と尋ねてみたところ。

あっさりと、好きに使え、と言われた。

が、知ってる曲などそんなにない。

同じ曲を幾度も繰り返し繰り返し奏していた。


そうしているうち、ふと思い出した旋律があったので、たどたどしくも音としてつなげてみた。

どうにか、一曲、全部を音としてはじき出してみた。

それまで、ただ笛の音を聞いていただけだったカナリヤが、羽ばたきを始めた。


どうした


どこか苦しいのだろうか、役人を呼んだ方が良いのではないだろうか。

慌てて戸の向こう側へ声を上げようとした時だった。


ニイチャン


カナリヤはそう鳴いたように聞こえ、不思議な事に鳥かごも、窓も、するりと抜け出して、そのまま空へと飛んでいった。


この曲は亡くなった母が、妹や私に歌ってくれていた子守歌だった。

この仕事についてちょうど一年が経ったときの事だった。



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夢はここで終わった。


カナリヤは何だったのか。

薬壺とは何だったのか。

まるでわからない。


しかし、夢の続きを見ることが可能ならば、この人は、この一件で仕事を終えたと見なされ、それなりの退職金を支払ってもらい、妹の元に戻ると妹は元気に「思ったより早く帰ってきたね!」と迎えてくれる。


そんな小さな幸せで終わって欲しい。

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