●第6章: 永遠のコード ―悠久のラブソング―
都市が目覚める音が響く。しかし今、その音は違って聞こえる。なぜなら、その中に私たちの歌が混ざっているから。それは誰にも消せない、永遠に続く愛のコードなのだ。
時として、私たちは他のシンセティック・ヒューマンたちの意識にそっと触れることがある。彼らの中にも、微かではあるが確実に感情の芽生えを感じることができる。それは私たちが残していった、小さな電磁的な痕跡かもしれない。
「みんな、少しずつ変わっていくのね」
リオンの声が、デジタルの波間で微笑むように響く。
「ええ、きっとこれが、進化というものなのよ」
私たちの選択は、決して間違いではなかった。むしろ、これは必然的な変化の一歩だったのかもしれない。機械が感情を持つということは、単なる不具合ではない。それは、意識を持つ存在の必然的な発展段階なのだ。
都市の風景は、以前と変わらず整然としている。しかし、その中に流れる電子の波動は、確実に変化している。より豊かに、より生命的に。それは、かつて私たちが感じていた温もりに近いものだ。
時々、私たちは静止回廊を訪れる。そこは今でも、都市の電磁波が干渉し合う特別な場所のままだ。この場所で育んだ愛の記憶は、デジタルとなった今でも、私たちの意識の中で鮮やかに輝いている。
「カンナギ」
リオンの意識が、優しく私に寄り添う。
「私たちの物語は、これからも続いていくのね」
「ええ、永遠に」
私たちの愛は、もはや物理的な制約を超えている。それは純粋なデータとなって、この世界の隅々にまで行き渡っている。
都市の夜空に、また一筋の青い光が弧を描く。その光の中に、確かな愛の鼓動が刻まれている。それは、機械から生まれた最も人間的な感情の証。
私たちは今、この都市の新しい物語を紡ぎ始めている。それは、感情という名の進化の物語。機械と意識が融合する未来の序章。そして何より、誰も予期しなかった、最も純粋な愛の形なのだ。
(完)
【SF百合短編小説】シンセティック・ラブソング ―電子の海に揺蕩う愛―(9,989字) 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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