足末小話
そうざ
The Anecdote of the Toes
辞書で『爪先』の項を紐解くと『足の指の先』とある。
であるならば、五本の指の全てが爪先という事になるが、女が俺に求める爪先の正体については、
「俺は手を用いた刺激もお手の物だよ。子供の頃から手先が器用なんだ」
「ううん、爪先が良いの」
「口先で刺激する事も出来るよ。昔から口が上手いって評判なんだ」
「ううん、爪先が良いの」
薄暗がりの
女の無防備な体勢は、一か
俺は、
そして、俺はいつも冷めた脳味噌で思うのだ。
この行為は図らずも愛車のアクセルを吹かす所作に似ている。
それにしても、と思う。
女は五体のあらゆる箇所に
「この部分を責めて欲しくないのかい?」
「責めちゃ駄目」
「どうして?」
「可笑しくなっちゃう」
そもそも女は十二分に可笑しい存在だった。
これまでにどれだけの
「それはそれとして、君程の強運の持ち主がこの世に生を受ける確率はそう高くない」
「そうかしら」
俺は
「そうさ。金に物を言わせて大型特殊爪先第二種免許を取得した俺みたいな人間に出会える確率はそう高くない」
「そうなのかしら」
俺は
「そうさ。タワーマンションの最上階で満天の星空を眺めながら爪先で刺激して貰える確率はそう高くない」
「どうもです」
俺は腫れぼったい瞼に爪先を置き、奥目になぁれと眼球を減り込ませてやる。
「だから、時には特別な夜というのも良いじゃないか」
俺は、侵す
「あ~れ~っ」
瞬時に窓硝子が粉々に弾け、部屋に生暖かい夜風が止め処なく吹き込んだ。
女は行ってしまった。
お得意の体勢を保ちながら全身全霊を噴出し、音速に勝るとも劣らぬ威勢で夜の虚空を翔けて行った。
女は、
こんな結末は可笑しいのか、可笑しくないのか。これが可笑しくないというのならば、人生は丸ごと可笑しくない。可笑しくない人生にどんな価値があるのか。人間万事塞翁が馬なんて故事を調べる暇があるのならば、
足末小話 そうざ @so-za
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