茜と彼との心の距離は……。

まるねこ

第1話

 高校生活最後のこの日、私は頑張った。凄く、凄く、ものすごーく頑張った。人生で一番頑張った。




 この三年間、同じクラスで一緒に過ごした島田君ともう会えなくなる。もっと会いたい、話をしていたい、そんな気持ちが私を駆り立てる。


 島田聡君はイケメンで明るくて、仲間思いで、たまにおちゃらけたりしてその場を盛り上げる役になったりしていつもクラスの人気者だ。


 かくいう私、安藤茜はというと、中学生の頃からクラスメイトに『暗い子、黒髪ストレートで結わないとお化けみたい』なんて陰口を言われ続けてきた。


 高校に入ったら心機一転、楽しい高校生活を夢見て、服装も髪型だって変えて頑張ってきた。『お化け』って言われていた自分を変えるために部活にだって入った。


 高校のクラスは幸いにもみんな仲が良くてみんなで映画を見に行ったり、カラオケにも行ったりしたの。


 たまに島田君と話をしたりして彼と少しずつ距離を縮めていき、グループ活動では会話が途切れないほどの仲良くなった。

優しい彼を好きになるのは自然なことだと思う。


『告白しよう!』そう決めた私は友達の由奈に相談してみた。


「由奈、私さ、島田君に告白しようと思うんだ」

「えーマジで? そうなの? 島田でいいの? あんまり良い噂聞かないんだけど」

「そんなこと、ない、と思う。島田君とっても優しくない?」

「茜がそう言うんなら応援するわ。まあ、私が反対したところで気持ちは変わらないんでしょ? ダメ元で言ってみればいいんじゃない?」

「えー。由奈、冷たい」


 放課後、誰もいない教室で冷たいペットボトルのお茶とお菓子を食べながら由奈と恋バナをする。


「で、茜はいつ告白するの?」

「卒業式の前の日かな」

「そういう時ってさ、卒業式当日に告白するもんじゃないの?」


 由奈が面白そうにお茶を飲みながら言う。


 確かに普通は告白をする時の定番は卒業式が終わってクラスで解散となった時にするもんだよね。


「だってさ、式が終わった後ってみんながいるし、みんなに見られながら告白する勇気はない!」

「確かに! だから前日なんだね」


 由奈は納得したように頷いた。


「で、どうするの?」

「帰る時に一緒に駅まで行こうって誘ってその間に告白するつもりなんだけど。やばい、がちで緊張しすぎて死ぬかも」

「いいんじゃない? あたしが後ろで見てるから。頑張れ」

「絶対だよ?」

「もちろん!」


 こうして由奈と作戦会議を終え、告白までの日をドキドキしながらスマホでカレンダーをチェックする。


 一日、一日と告白する日が近づく度にドキドキして授業が上の空になる。


 どうしよう、もし付き合うことになったら。


 でも、島田君はモテるし、バイト先の人から告白されたって言ってたから振られちゃうのかな。


 詳しく聞けないのが辛い。

 不安と焦り、淡い期待で眠れない日々。





 ―こうして迎えた卒業式前日。


 クラス内の掃除も終わって荷物も鞄に詰め込んだ。由奈からは時々視線が飛んでくる。

『今日! ばっちり見届けるから!』とサムズアップで。


 私はホームルームの前にトイレに入り、最終チェックをする。


 前髪が乱れてない?

 アホ毛出てない?

 ちゃんとリップも付いているし、まつ毛もばっちり。

 アイプチ確認OK!

 リボンも曲がってない。


 ……大丈夫。


 教室に戻ると既にホームルームが始まっていた。

 心臓がバクバクする。


 もう、先生の話が長いし、聞いていられない。ガチで泣きたくなってきた。


「いいですか、最後の挨拶はしっかりとしますよ。日直さん、お願いします」


 先生の言葉に日直が声を掛けた。


「起立、気をつけ、礼」

「「「さようなら」」」


 ついにこの時がきた!!


 ドキドキと煩くなる鼓動。

 冷たくなった手。

 自分でも緊張しているのが分かる。


 私は周りを見ながら立ち上がり、持ち帰る荷物で大きく膨れ上がった鞄を肩に掛けた。


 島田君はというと、今日はこれからバイトらしく、男友達と別れを告げて教室を出て行った。


 追いかけないと……。


 私は逸る気持ちを抑えて靴箱へ駆け出した。島田君は靴箱の靴を取り、履き替えようとしている。


 私も急がなきゃ。


 震える手で靴箱に上履きを入れて靴を取り、島田君に声を掛けた。


「し、島田君!」

「ん? 安藤さん。どうしたの?」


 声を掛けられて島田君は手を止めて不思議そうに私を見ている。


「い、一緒に「安藤さん、つま先」


 えっ?


 島田君が真面目な顔で私に言った。


「つま先……」


 つま先に何があるの?

 その言葉に私は不思議に思いながら視線を落とした。


「靴下、穴空いている」

「……」

「ほ、ほ、ほんとだ、ね」

「で、どうしたの?」

「ううん。バイバイって言おうとしただけ」

「そっか。安藤さん、また明日」

「……また、明日ね」


 彼が去った後、由奈が心配そうに声を掛けてきたけど、恥ずかしさと先程までの興奮で何を言っているのか理解出来ないでいる。


 ……もう立ち直れる気がしない。


【完】



ーーーーーーーーーーーー


クスッとしていただけたら最高に嬉しいです。


カクヨムコン短編のお題『つま先』が面白そうだったので参加してみました。

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茜と彼との心の距離は……。 まるねこ @yukiseri

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