そよ風のように

人は、何かから何かを得ることで生きている。
それは奪うことと同義で、もちろん与えるときもあるけれど、
与えるばかりでは、人生は立ち行かなくなってしまう。
これは、人だけではない、生命のルールといえる。

この物語に出てくる香留は、もちろん人間だろう。
けれど、どこか普通の人ではない感じがする。
たとえるなら、そよ風のような存在。
どこからともなくやって来て、どこかへと去っていく。
一瞬の邂逅。何も乱さず、何物にも妨げられない。

そよ風は、奪うことがない。
ラストの一文は、それを示しているのだろう。

では、「僕」は、あるいは読者は、そよ風から何も得なかっただろうか。
それは、この物語を読んだかたならわかると思う。

レビュワー

このレビューの作品

サパテアード