【お題で執筆!! 短編創作フェス】雪文字【雪】

星羽昴

誰が書いた?

「待ちなさい! 絶対、あなたがやったんでしょ。白状しなさい!」


 振り袖姿の少女を背後から押さえ込んで、その口に左右から指を入れて引っ張る。


「ほら、白状しろ! この! この!」


 少女は首を横に振り、なかなか認めようとしない。しかし、この少女以外に犯人は有り得ないのだ。



 雪の降る日に、彼の家でを楽しんでいた。しんしんと降る雪が庭に降り積もって足跡一つない白一色の……はずが、そこには『貧乳』の文字が雪を抉って書かれていた。



 この家にいるのは、彼とわたしと彼の妹の3人。わたしがこんな文字を書くはずがない、彼も書くはずがない。残る1人が犯人に間違いないのである。

 彼は、わたしと妹の紛争に関わりたくないようで、目の前で展開している格闘戦を見えないフリをして珈琲を飲んでいる。

 彼の妹……振り袖の少女は、ブラコンを拗らせて彼に近づく女性に対し露骨に敵意を示すのだ。彼のであるわたしのことを、まるで蛇蝎の如く嫌っている。



 動機も十分、状況証拠は少女以外の犯人を否定している。しかし、当の少女は犯行を認めない。


曰く

「雪が降り始めてから、わたしはずっと一緒にいたじゃないですか!」


 確かに、少女はわたしと彼と一緒だった。わたしがこの家を訪れて、彼の部屋に入ると間もなく珈琲を持って部屋に来た。それからずっと部屋に居座っていた。

 雪が降り積もり、白く染まった庭を見ようと窓を開けたら『貧乳』の文字が目に入ったのだ。雪の上に、どうやって文字を書いたかは謎だ。


「文字を書いたトリックなんかどうでもいいのよ。犯人は間違いないんだから! 大体ね、他人のこと言えるような胸してないでしょ、あなたも!」


 格闘戦は、それから長い時間続いた。

 そろそろ夕食を食べたくなった彼が、仕方なく庭に出て確認する。


「雪が降り積もる前に、台所の食塩で文字を書いておいたんだろう? 塩は雪を溶かす融雪剤になるんだ。食塩水の氷点は0度より低いから、塩がある部分は水になる」


 少女はバツが悪そうに頷く。彼はわたしの方をチラリと見てから、少女に言い聞かせる。


「相手を選びなさい。論理性のない相手に、どんなトリックを仕掛けても意味はないんだから」

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