善伝承作っておうちに帰るよ!

「いやぁ、中々なジェットコースター展開で、冷静美少女なアタシも困惑しちゃうのじゃよ」


 手で顔をあおぐハピエルだが、全く困惑してなさそうな声と顔で言う。


「ほんとこれ現実なのか疑わしいですよね。皆さんヒトじゃないみたいだし、みょっちゃん地球の生き物じゃないし、おまけにアタシ達はワガヤブの伝承の登場人物のパラレルワールド世界の人だし。なんか割と設定ガバいし」


 呆然とした顔で皆に顔を向けるひかり。


「まぁまぁ♪ なるようになりますから、一緒に頑張りましょうひかりちゃん♪」


「そうですよ。なんだかんだで良い雰囲気を出せたんだから、最後まで乗り切れると思いますよ、ひかりさん」


 笑顔で励ましてくれる、イフとセイ。


「イフさん……セイさんも……。よしっ、ジェットコースター展開でも、なんとかやりきってみせるよアタシ! ひかりファイトー!」


 拳を高く上げ、気合いを見せるひかり。


「さて、それじゃあクイズとやらを解かせてもらおう。みょっちゃん、準備をお願いしてもええかの?」


「勿論! もう答えられるから、ドンっと出すね!」


 4人全員が、息を飲んだ。


「問題! デデン! 『月を映す水面は揺れる花火』という噂の主人公の名前はなんでしょう!」


 4人全員、固まってしまった。


「えっ……ちょっと待って。これもしかして……ピンチかも? やも?」


 口を片方だけ上げてひきつらせるひかりは、ハピエルを見る。


「うぬ。これピンチじゃ」


 もはやさとった顔でイフを見るハピエル。


「あーえっとー! イフちゃんこれ、流石に分からないのでみかん食べたいですねー! 失礼しました! いいえ失念です!♪」


 責任を全部押し付けるかのようなとびっきり笑顔でセイを見るイフ。


「えっと……私これ、もしかしたら聞いた事あるかもしれません。確か、かなり短いラブストーリーなんですよ。でもちょっと思い出せなくて……」


 なんとか情報を出せたセイは、頼みの綱はあなたしかいないという顔でひかりを見つめる。


(ぬっ……。それってつまり現実世界にある本の話って事だよね……。ええええでも、アタシそれ読んだ事無いから分かんないよぉぉ)


「こんな時、みこちゃんが居てくれたら……」


「みこちゃん?」


 不安な顔をしているひかりに、セイが質問をしてきた。


「アタシのっ、親友なんです。凄く優しくて、頼りがいがあって、クールなんだけど人懐っこい所があって。その子が居てくれるだけで、アタシの推理力は増してくれるんですけど……」


(でも、こんな状況じゃ、みこちゃんが居るわけ無いし……。伝承に偶然親友同士出るなんて、そんな奇跡みたいな事あるわけない)


「みこちゃんは、いつもアタシの側にいてくれるし、アタシを助けてくれるんですけど。こんな状況じゃ流石にみこちゃんが助けになんて……」


「来たよ、ひかり」


 暗い雰囲気が漂っていた一同の空気を一変させたのは、1人の低音少女の声だった。


 スラリとした長い手足、色白の肌、少々つりあがった目、ミステリアスな雰囲気に切られた黒髪のボブ、少女とは思えない大人びた格好の人物がそこにいた。


「み、みこちゃん!? え、な、なんで!?」


 めちゃくちゃビックリ顔のひかり。困惑の一同。


「あの、ウルトラびっくりすると思うんだけど、うち、ひかりの布団で一緒に寝てたんだよね。ひかりの寝言で起きたんだけど、眠くてさっきまで寝てたんだ」


 冷静に返すみこ。


「えっ……」


 ひかりは自分の言ったことを思い出した。


『みこちゃん……今日はもう推理出来ないよ〜』


『そういやさっき、なんかこたつみたいな暖かさがもぞもぞっとしてたけど、あれなんだったんだろう』


「いやあれみこちゃんだったの!? いや、来てくれて嬉しいけどそんな伏線回収ある!? 都合良すぎてむしろ好きだよ愛してるみこちゃん!」


「うん。こっちはこのみこさんの所にも行ったにに。ちなみにひかりさんとみこさん、伝承でも仲良さそうだったにに」


(えっ。それはニコニコしちゃう結婚しようみこちゃん)


「はは。今日もひかりはウルトラ可愛いね。ところでなんだけどね、ひかり。うちもあの本を知ってるんだ。噂によると、その本に出てくるマンションに行くと、絶対に恋人と縁が切れないってのがあるらしいんだ」


「絶対に縁が切れない……」


 ひかりは考え始める。一同はひかりの顔を見つめる。


「それでね、そこに巡礼しに行く人達は、1人称を私にしてあなたにお祈りをしないといけないんだって。そうじゃないとそのご縁は訪れないんだってさ」


(ラブストーリーの小説。恋人と縁の切れないマンション。1人称を私にしてお祈り……)


「分かった! セイさん、みこちゃん! 本当にありがとう!」


 こたつから立ち上がり、みょっちゃんに答えを出そうとするひかり。


「おお! 分かったのか! 凄いのじゃなひかりは!」


 同じく立ち上がるハピエル。


「そうですね! ひかりちゃんなら出来ると信じてました!♪」


 それに続くイフ。


「運命とか、奇跡とか。やっぱり人生には必ずあると思うんです。ひかりさんを信じていました!」


 希望を見出すセイ。


「答えは、"私"!!!!」


 手のひらを上に出して、みょっちゃんを指すはかり。


「…………せいかーーい! 凄いや! やっぱり善伝承の人物はだてじゃない!」


「「「「「やったーー!!!!!」」」」」




◯●◯●




「いやぁ〜。おかげで善伝承を無事生み出せます。本当にありがとね皆さん」


 嬉しそうにぴょんぴょんするみょっちゃん。誇らしげにしていて、ワガヤブに帰るのが待ち切れないようだった。


「なんか、本当にあっという間だったけど、凄く楽しい気分になれましたよ。あにゅう。みょっちゃんと別れるのは寂しいかもやもなぁ〜」


 みょっちゃんと握手をしながら、別れ惜しそうな顔で見つめるひかり。


 他の4人も同様に、なんだか寂しそうな顔をして立っていた。


「それじゃあ、こたつの脇に白い光を作るから、年末を振り返ったら帰ってねにに。またもしかしたら呼ぶかもしれないから、その時は協力お願いだにに!」


 了解ポーズを皆に見せて、皆の話を待つ為にみょっちゃんはこたつの上に座り込んだ。


「まぁイフちゃんはとりあえずー、来訪者さんとお話を作って、みーんな良い未来に導けるようにしたいってガムシャラに頑張ってましたね! おかげで今年は、10人全員ハッピーでしたよ♪」


 そう言いながらイフは、クルクル回ってウフフと言っていた。


「イフちゃんも人助けだったのじゃな。それはごっつええ事じゃの。アタシも皆の人生が上手く行くように、かなり頑張った年じゃったな」


 うんうん、と感慨深くうなづくハピエル。


「なんでも、この前来てくれた子羊ちゃんはな、アタシの相棒が言うには仲良くずーっと幸せに暮らしてるらしいし。アタシのとこのタイムループは物騒なのが多いからの。今後が心配なのじゃが、無事で何よりじゃった」


 嬉しそうな顔で語るハピエルを見て、ひかりも嬉しくなる感情を覚えた。


「クリエイティブにポテチを食べてれば、きっと甘いミルクに沈むオレオクッキーにはならずに済むのですよ!」


 人差し指を出してウインクするイフ。


「いや、大分意味は分からないですよイフさん……」


「失礼しました! いいえ失念ですひかりちゃん!♪ あなたと会えて良かった! あーー、またひかりちゃんと会いたいなぁ……」


 ひかりの手を掴んでうるうるの目をするイフ。


「あっ、それはちょっとうちの許可が必要なので、一旦手だけは握るのとめてくださいイフさん」


 冷静に腕を掴んでイフの手を払いのけようとするみこ。


「はっ……イフさんとみこちゃんの板挟みだなんて……アタシにとっての天国かも!!」


 ふぬけた笑顔を見せながらみこの腕にしがみつくひかり。


「ひかりちゃん悪い子〜! ……また私の語尾、マネしにきてねっ」


 少し悲しそうだが、未来を見据えた顔でひかりを見るイフ。


 ハピエル、セイ、みょっちゃんも切なそうにしながらも微笑んでくれていた。


「あぁぁぁぁっ!! 時間が足りなすぎますぅぅぅっ! また皆に会いたいあにゅーー!!」


 泣きだしそうなひかりの頭に手をやり、なぐさめるみこ。


「そうじゃな。みこともあまり話せていないし、次もまたどこかで会えるじゃろうきっと。てかまだ年末の振り返りしてないから、しめちゃダメじゃぞ」


 ピシッと言いながら、セイを見るハピエル。


「私ですね。私は……。病弱なので、誰かと話す事とか動く事とか、こうやって笑い合う事も出来なかったので、今年の振り返りで2番目に良かった事が、あなた達に出会えた事です」


 少し泣きそうになりながら、セイは続ける。


「1番良かったのは、好きな男の子にようやく会えた事なんです。なんというか、出会いは別離の為のバッドエンド、でもそれは、出逢いっていう最高のハッピーエンドを迎える為に必要なんだなって、再認識出来ました……」


 頬を濡らすセイに、思わず抱きしめていたイフ。


「だから、皆さんとまた会うことが無くても、あっても、私は皆さんと出逢えて良かったと思いながら戻ります……本当にありがとうございました!」


 涙を見せぬよう、しっかりと抱きしめるイフ。


「ありがとね。ほんの一瞬の出来事だったのに、そこまで思ってくれて。イフちゃんは、皆のイフちゃんだから、絶対にセイちゃんのとこにも現れるからね! 寂しくなったらまた思い出してね!」


「はい……ありがとうございます、イフさん」


「なぁんじゃ、出会って早々こんな感じになる訳無かろう。アホらしいわぁ……。本当にギャグ漫画みたいな展開なのに、アタシまで泣けてきたのじゃ……」


 ハピエルまで目をこする仕草をしはじめた。


「うええええん、アタシ振り返れないぁぁぁい」


「じゃあうちからやるよ。そうだなぁ。なんか、話は聞いていたけど、皆さんと顔合わせたのもほんの数分だったから、正直うちは泣けないんですけど。それでも、今年の内にウルトラインパクトの強い出来事に出会えたなって思えました」


 みこは続ける。


「1人でもひかりは頑張れるってのも分かったし、でもここぞと言う時にやっぱりうちを頼ってくれるんだなって、嬉しい気持ちになったので、それだけでうちはもう幸せです。本当にありがとう」


 そう言ってひかりを抱きしめながら、みこははにかんだ。


「くううううう! はい! アタシ行きます!! アタシ、いつも部活で謎解きとかしてるんですけど、今回それを活かして最後良い所貰っちゃったみたいな感じになりましたけど!」


 ひかりは続ける。


「ハピエルさんが冷静に背中を押してくれて! イフさんが気楽にやる事を教えてくれて! セイさんが、実際にヒントと誠実さを教えてくれて! そしてみこちゃんが、ここぞという時にやっぱり頼りになってくれて! 本当に数分なのに、一生分の楽しい思い出を共有出来た気がしました!!」


 ひかりの顔を見つめ、真剣に話を聞く一同。


「なんか、凄く色々と成長出来た1年だった気がします! アタシ、優しい人になりたいって目標があるので、皆さんみたいに凄い人と出会えて、また1つ人ってなんだろうって事を考えられた気がしました!」


「ひかり……」


 みこはひかりの言葉に感動しているようだった。


「さようならなんて寂しいです!! また絶対!! どこかで会いましょう!!」


 満面の笑みで、全員を見渡すひかり。


 それに応じるように、全員がうなづく。


「じゃあ、ワガヤブがピンチじゃない時も、こっそりこういう事しようかなぁにに」


「あにゅ! みょっちゃんいいの!?」


「いいよ! その代わり、短時間だからねにに!」


 一同の顔に笑顔が見える。


 終わりじゃない、まだ出会えるのだと。


 皆の心を明るくさせた。


「それじゃあ、こっちは頑張ってくるから。またどこかで会おうににー! またねー!」


 そう言って、みょっちゃんは光に入っていった。


「……アタシ達も、そろそろ帰らなきゃ」


「ひかり、みこ、イフちゃん、セイ、皆楽しかったぞ。迷える子羊的な誰かとして紡屋に来てもいいんじゃからの。絶対、絶対また会うんじゃからなっ。ほんじゃ…………おおきにっ」


 別れを惜しみたくなかったのか、先陣切ってハピエルが光の中に入ろうとする。


 すぐに出ていこうとした彼女だが、一瞬立ち止まって、またこちらを振り返る。


 そして、満面の笑みで手を振った。


 ひかり達も一斉に手を振る。またねの挨拶だ。


「「「「また会いましょうー!!」」」」


 ハピエルは光の中に消えていった。


 またねを背に。


「それじゃあ、私も行っちゃおうかな〜。ひかりちゃん、セイちゃん。絶対にまたおしゃべりしようね? イフイフ、イフイフイフのご来訪も待ってるからね!? 特にみこちゃんは絶対にもっと話そうね!?」


 皆の手を握り、みこに大きな瞳でうるうるするイフ。


「はい。またお話しましょう。楽しみにしていますよ、イフさん」


 よし、と言わんばかりの笑顔で3人を見たイフ。


 光の前でこちらを振り返り、ハピエルと同じようにまたねの手を振る。


「それじゃあ皆さん!♪ イフが退場致します〜! 失礼しました! いいえ失念です! またね〜!♪」


 ぴょんっと飛び跳ねて、彼女は消え去った。


「みこさん、ひかりさん。短い間ですがお世話になりました。泣いてしまうなんてお恥ずかしい姿見せてしまいましたが……」


 ひかりとみこの手を握り、申し訳無さそうにするセイ。


「いいえ! セイさんは本当に心優しくて素敵な人です! あにゅーとかかもやも言ってるアタシ、500パー怪しいですもん! そんなアタシを疑わなかったセイさんは凄い人です!」


 手を強く握り、尊敬の意を示すひかり。


「ひかりさん……。嬉しい。私、本当にまた皆と仲良くしていいのかな?」


 また泣き出しそうになるセイ。


「いいんですよ。うちなんて、セイさんとウルトラ全然話してないのに、優しさが伝わる素敵な人ですから。また会いたいです」


「みこさん……」


「そうですよ! セイさんはアタシが目指すべき優しい人の1人です! 先輩として慕いますからねこれから! ……だから、また、アタシ達と会ってください……。待ってますからね」


 泣きそうな声で、セイに抱きついたひかり。


(ほんとバカみたいだよね、たった数十分の付き合いなのに、めちゃくちゃ泣きそうになってるんだもん。普段なら笑う所なのに、こういうズルい話って本当にあるもんなんだな……)


「……それじゃあ、私は行ってくるよ。みこちゃん、ひかりちゃん、またね!」


 笑顔で光に向かっていくセイ。


「あっ、今ちゃんづけを!」


 とびっきりの笑顔で、2人を見るセイ。


 またねの手を振る。


 今まで大人しかったセイの、精一杯の大きな感情表現だった。


「制服は! いつでも皆を見守ってるからね! 絶対に、あなた達が不幸にならないように……ずっと幸せを願い続けるからね! 大好きにさせてくれて、ありがとう……っ!!」


 幻のようにセイは消え去った。


 心優しい彼女の、美しいまたねだった。


「行っちゃったね〜みこちゃん。アタシ達も帰ろっか」


 みこを見つめるひかり。


「そうだね。うちらはあっちでも会えるし」


 そう言って、ひかりの手を繋ぐみこ。


「えっ! な、なにこれ! 少女漫画ですか!? ラブコメですか!?」


「嫌?」


「結婚しよっか」


 キリっとした顔で笑わせにいくひかり。


「も〜! ……それじゃ、帰ろ。うちらの家」


 スッキリとした顔で光を見つめるみこ。

 

 それに応じる笑顔のひかり。


 彼女らに、この空間に皆に、きっと良い事が起きるのではないか。


 そんな都合の良い事もあって良いのではないか、そう思わせる笑顔だった。


「ねぇねぇみこちゃん! アタシ達、伝承でも一緒だってさ! 本当に結婚じゃないこれ? マジズッ友すぎてかのぴっぴだね!」


「友達なのか彼女なのか分かんないね、もう。うん。うちも凄く嬉しかった。生まれ変わっても、うちはひかりとずっと一緒に居たいよ」


「……そうだね。みこちゃん、ずっと側にいてね。大好きだよ」


「うちも、大好きだよ」


(今日出会った皆も、アタシは大好き。アタシ……もっと優しくなって、皆の笑顔を見るんだ。だから、待っててね、皆、みこちゃん!)


「よーーし! パフェって焼肉るよみこちゃん!」


「ウルトラ楽しみ! いこー!!」


 手を繋いだ2人の後ろ姿は、いつまでも途切れる事無く、どこまでも、どこかの世界に居る皆の笑顔すらも巻き込んで、優しさと元気を届けるような、そんな気がしました。


 とんちんかんで、急展開。そんな不思議な話は一旦終わり。


 

 またどこかで皆と繋がってるのかもしれない。皆を笑顔にする為に。くろすお〜ば〜は、まだ終わらない。

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ワガヤブくろすお〜ば〜! 吾輩は藪の中 @amshsf

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