入院総決算
オカン🐷
入院
「痛い、ごめん、無理」
痛いことされて何を謝っているねん。
でも、イケメン王子は顔色一つ変えずに作業を続ける。
入院した病院の透析室。
彼は血管を確保するためのゴム、駆血帯を素肌の腕に括りつけようとしていた。
腕の皮膚がゴムに巻き込まれている。
「それは痛いって」
ベッドの足元に立つ、先輩だか、上司かわらない男性から声がした。
王子はおもむろに駆血帯をパジャマの袖の上から巻き直した。
チミチミの刑から解放されたのも束の間、今度は針を真上から突き刺した。
えっ? 彼は血管がどういう風に流れているのかわかっているのやろか。
それで、冒頭の場面になるのだが。
「角度はそれでいいのか?」
また声がした。
あかんやろ。ええわけない。もう嫌。選手交代や。
無情にも選手交代はなく、先輩だか上司は彼のことを黙って見守り続けた。
何でこんなに運が悪いのやろ。
以前通っていた透析クリニックでも、ブルブルと震えてなかなか穿刺ができない看護師がいて、「失敗してもいいから刺してみて」と言ったことがあった。
そのときが彼の初仕事だったようで、でも、何年経ってもそれが癖なのか、やはり震えながら穿刺をして男性患者に「ええ加減にせえ」と怒鳴られていた。
そして、このイケメン王子はダイアライザーという濾過装置に、血液から老廃物や余分な水分を取り除くために繋ぐ針を刺し終えたら安心したのか駆血帯を外した。
おいおい、針は2本あって体に濾過した血液を返すため、もう1本刺さなければならんのだよ。
また駆血帯を巻いて、何回同じことやってんねん。
駆血帯を巻く練習かいな。それはマネキンでもできるやろ。
その後、驚くことに王子の穿刺は適格だったようで一度も警報音を鳴らすことなく透析を終えた。
病室に戻ると14時をすぎていて、昼食は撤収されていた。
施設に入居している透析患者のおばあちゃんの話で訊いてはいたがショック。
「代わりの軽食です」
って、朝食の残りのパンにジャム、ジュース、プリンが運ばれて来た。
いくら甘いもの好きでも2食も続くとげんなりする。
今回の入院は右手の手根管症候群、これは日帰り手術ができたのだけど、中指が曲がったきり戻らなくなった。骨に巻き付いた肉だか組織を切り離して添え木を当てると訊いていた。ところが術後の病室のベッドで麻酔から覚めると、中指に添え木がなかった。
手術中麻酔が効いているので、痛がっていた中指を伸ばしてみると伸ばせたので腱鞘炎だということがわかったという。
手のひらには3カ所の切り傷があるが、眉間に皺ができるくらいの疼痛が収まった。
夜中に激痛で飛び起きロキソニンを飲む必要もなくなった。
透析中は血行が良くなるからか、やはり痛みに襲われた。看護師さんが見かねてマッサージをしてくれてありがたかった。
どうしてもっと早くに手術をしなかったのか。
実は左手の手根管手術をしていて、結果が芳しくなかったので一度診察からも遠ざかっていたのだ。
ところが、寒くなったせいか激痛が走るようになり今回の手術、入院に至ったわけだ。
2回目の入院は7月の終わりに、低血糖で意識をなくし救急搬送された。
救急で運ばれた病院は応急処置だけしてベッドが満床のため、遠くの病院に転送された。
低血糖になる数日前の透析クリニック医院長との会話。
「このインシュリンは低血糖になるから嫌です」
と言っているにも関わらず強引にことを勧めた透析クリニックの医院長の責任も大きい。
転院先で20日近く入院して、インシュリンなしの飲み薬だけの治療の指導を受けて退院するも、通院している透析クリニックの医院長は退職した。
そして、新しく来た医院長は「飲み薬では糖尿に効果が表れない」と言い、またインシュリンを再開すると言う。
「まずは12ドースから始めましょう」
「それで低血糖になったんですよ」
と、抗議しても訊き入れない。
「また救急搬送されたらどうするんですか?」
「そのときは、ごめんなさい」
冗談を言ってるつもりなのかもしれへんが笑われへん。
医者ってそれでええの?
実は血糖を測定するのに指先を針で刺す道具が苦手。飛び出してくる針で採血するのだが、何年経っても慣れない。
飛び出してくる針が嫌なら、その道具を使わずに針先で指を突いて採血したこともあった。
ところが、最近アプリセンサーと言う便利なものができた。
丸いボタンのようなものを上腕部に装着し、スマホにアプリを入れ、そのボタンに翳すと血糖値を絶えず測定してくれる。
それを使いたいと新医院長に言うと、
「私はそんなもの知りません。それがやりたければ、そういうのをやっている病院へ行ってください」
と、吐き捨てられた。
そこに救世主が現れた。
ここの医院では毎日先生が変わり、今日は糖尿病専門の先生がいらしてご自分の腕でセンサーを試されたという。
「簡単ですよ。取り寄せるのも容易ですし」
彼女の口添えで、いつでも血糖値が計れる状態に今はある。
しかも、インシュリンは6ドースから始めるということで、いまだにその値は変わっていない。
糖尿病専門医の彼女がいなければ、12ドースのインシュリンでまた救急搬送されていた。
そのときは植物人間になっていたか命さえなかったかもしれない。
今回の入院で血糖値が40に下がっていた。30であの世に行くらしい。
脳に糖が回らなかったので少し記憶力が低下しているかもしれないが、命拾いしたのは確かだ。
入院するたびに足が悪くなり、以前は医院に徒歩で行っていたのだが、新医院長に転院を勧められても、送迎のあるこの医院から、しばらくは離れられそうもない。
哀しいかな張り通す意地も残っていない。
残念なことに糖尿病専門の女先生は移動になった。
目の上のタンコブ的な彼女を新医院長が追い出したのに違いない。
ここの医院は雇われ医院長がコロコロ変わるのでも有名である。
センサーを取り付けたあとでの新医院長の発言。
「あなたにいろいろ教えてもらわなきゃ」
って、おまえが医者やろ。
給料分、働けよ。
わからんと言うとらんと、スマホで検索したらよろしいやん。
今年初めての入院は鎖骨を骨折したからでも、足の爪が剥がれたからでもなかった。
動脈硬化一歩手前のカテーテル手術のためだった。
これも下手したら片足を失っていたかもしれへん。
まあ、1年間に3回も入院するなんてすごいでしょ。(自慢になるか)
でも、病気自慢をする人がけっこういてはるけど、決してそれやないです。
今年の汚れ、今年のうちにと慌てて書きました。
本年もお世話になりました。
また来年もよろしくお願いいたします。
【了】
入院総決算 オカン🐷 @magarikado
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます