神様の声を聞いた。向かうはPCの画面だった。
- ★★★ Excellent!!!
小説を書いている人間なら誰しも躓く問題だろう。自分の綴る言葉や物語は面白いのか、正しいのか。
本当にこれでいいのか。
それでも書くことをやめられないのは、まだ情熱の火を宿しているからだ。
本作の主人公「俺」は、決して前向きに小説を書いている人間とは言えないだろう。結果の伴わない活動に精神を蝕まれていたのかもしれない。惰性で、だが取り憑かれたように書くことをやめられなかった「俺」。
そんな「俺」がある時耳にしたのは、祭りの神を名乗る声だった。
彼女(?)の声あってこそ、「俺」が小説を投稿するに至ったのだろうことは分かる。だが、果たしてそれだけだろうか。
彼は神様の声を契機としながらも、自らの思考の中で一つの答えを選びとりその道に進んだ。
序盤早々、「どうしてこの物語にこんなに惹かれるのかな」と頭の隅で考えていた。
舞台は変わらず、一人の男が幻聴めいた自称神様と会話したりしなかったり。孤独にパソコンの画面に向き合い続ける話が、一体どうしてこれほど私を惹きつけるのだろうと。
結末まで読み終えて、理由が分かったような気がした。
「俺」は終始部屋の中にいたわけだが、その思考は思いっきり動いていたのだ。思考の波がそのまま物語の緩急となり、私を惹きつけていたらしい。そのことに気づいた時、衝撃を受けた。
主人公がこれほど動かずして、こんなに面白い物語が存在するという事実に戦慄すら覚えた。
やはり坂口青という作家には引力があるなと再認識させられた。
素敵な物語をありがとう、皆さんにもぜひ本作の魅力を直接味わって欲しい。